第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

精神障害

[OH-3] 一般演題:精神障害 3

2022年9月18日(日) 08:30 〜 09:30 第4会場 (RoomA)

座長:四本かやの(神戸大学大学院)

[OH-3-5] 口述発表:精神障害 3長崎市精神障害者ピアサポーター養成講座の実践報告

河野 知房1米田 直人2松尾 帆夏2田中 悟郎3 (1NPO法人長崎のぞみ会のぞみ共同作業所,2長崎大学大学院医歯薬学総合研究科,3長崎大学医学部保健学科)

1.序論
厚生労働省は,障害福祉サービス等におけるピアサポートを担う質の高い人材を確保するために,「障害者ピアサポート研修事業実施要綱」を令和2年3月に定めた.長崎市は,令和3年3月に公表した「長崎市第6期障害福祉計画・長崎市第2期障害児福祉計画」の中に「精神障害者ピアサポーター養成講座」を開催することを明記し,NPO法人長崎のぞみ会に業務委託した.本講座の目的は,「自らの当事者性を活かしながら他の精神障害者を支援するピアサポーターを養成するとともに,ピアサポーターの活用方法を理解した障害福祉サービス事業所等の従事者を養成することで精神障害者が地域で安心して生活できる体制の構築を図ること」とした.
2.方法
長崎市内の地域活動支援センター,就労支援事業所,自立訓練事業所,相談支援事業所の計222施設に本研究の目的や方法を記載した受講者募集要項を送付した.場所は,長崎大学医学部保健学科の講義室等で行った.講座は,新型コロナウイルスの感染対策として,対面とオンラインの混合型で行った.
3.結果
受講志願者は,26名【男性18名(69%)・女性8名(31%);精神疾患・障害の経験有22名(85%)・無4名(15%);福祉施設職員4名(15%)・福祉施設ピア職員7名(27%)・就労継続支援事業所利用者9名(35%)・その他福祉施設利用者5名(19%)・障害者雇用枠勤務者1名(4%)】であった.講座の講師・ファシリテーター等は,ピアサポーター経験者5名とピアサポーター雇用事業所職員2名に依頼した.講座内容は,厚生労働省の「障害者ピアサポート研修事業実施要綱」に示された標準的カリキュラム及びテキストに基づき,基礎研修3日間【①10/3(日)13:00-16:10,②10/10(日)13:00-15:40,③10/17(日)13:00-16:10】,専門研修3日間【①11/7(日)13:00-17:10,②11/14(日)13:00-16:30,③11/21(日)13:00-16:20】,フォローアップ研修3日間【①12/5(日)13:00-16:40,②12/12(日)13:00-16:00,③12/19(日)13:00-17:10】を実施した.24名が修了し(修了率92.3%),講座修了時のプログラム満足度調査では,「満足」17名(71%),「やや満足」6名(25%),「どちらともいえない」1名(4%)だった.「自分のこれからのライフワークに一つの目標ができた大変意義深い講座」,「導くのではなく寄り添うこと,聴く力が求められ,弱点を話し合える関係が大切」,「一人一人の経験を共有することからピアサポートは始まる」,「ファシリテーターの皆様を目標にしつつ自分らしいサポーターとは何か見つけていきたい」などの感想があった.
4.結論
本講座は,①障害者当事者は「Expert by Experience(経験のある当事者専門家)」,②当事者と専門職の共同創造(co-production)という理念のもと,当事者と専門職が協働しながら実施した.また,参加者同士の協働及び対話などを通じ,自己の考えをしなやかに広げ深める「主体的・対話的な学び」を実現できるように努めた.その結果,講座の受講者の語りの中に講座の有効性に言及する内容を確認することができた.講座の修了生は障害福祉サービス事業所等でのピアサポーターの役割を活かした就労を希望しており,精神障害を抱える利用者と同じ目線で相談・援助することで,利用者のリカバリーに向けた希望獲得や地域生活の不安解消につなげることが期待される.