第56回日本作業療法学会

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一般演題

発達障害

[OI-1] 一般演題:発達障害 1

Fri. Sep 16, 2022 2:30 PM - 3:30 PM 第8会場 (RoomE)

座長:笹田 哲(神奈川県立保健福祉大学大学院)

[OI-1-1] 口述発表:発達障害 1脳性麻痺児の就学に向けた作業療法―ADL向上と家族支援に着目して―

竹下 晃1井上 和博2 (1独立行政法人国立病院機構南九州病院リハビリテーション科,2鹿児島大学医学部保健学科臨床作業療法学講座)

【はじめに】
脳性麻痺児の就学に向けた作業療法では,日常生活活動(ADL)の自立を目指すとともに学校生活をトータルに考えた継続的な支援が重要である.今回,脳性麻痺児の就学に向けた支援の中で,ADL向上と,母親の支援に関わる機会を得たため内容を報告する.本報告は母親より署名にて同意を得ている.また発表に関連して開示すべきCOIはない.
【事例紹介】
脳性麻痺(痙直型両麻痺)の5歳男児.X年より作業療法開始し,X+4年に同胞臍帯血輸血を他施設で実施している.現在GMFCSⅢ,MACSⅡ,CFCSⅠ.幼稚園に通っており,次年度より小学校支援級への就学を予定している.母親が医療関係者で,障害の知識を有している.母親より就学に向けて,「目標①通常箸が使えるようになってほしい」,「目標②トイレ動作において,自分で清拭ができるようになってほしい」とのADL面の希望を聴取した.子どもの能力低下評価法(PEDI)はセルフケア59/73点,移動41/59点であった.目標①ではエジソン箸を用いて摂取可能だが,操作時の手指の分離が不十分で,通常箸では握りこみやすい状況であった.目標②では便器に座位保持可能で,自分で殿部を拭こうとするが姿勢が不安定になり,完全には不可能で,ほとんど家族の介助を要していた.カナダ作業遂行測定(COPM)(遂行度/満足度)は目標①1/1,目標②7/2であった.人的環境面で,母親は就学に向けてADL向上に積極的だが,学校生活の具体的なイメージや継続的な支援の必要性の理解が不十分な様子であった.
【経過】
目標①,②に対する介入:箸操作ではまず手指の分離した動きを目指して,全指の動きから徐々に母指から中指の分離した動きを促した.段階づけた介入の中で数か月後には介助箸を使用しての摂取が可能となり,しだいに母指を代償的に使った上箸操作ながら通常箸操作が少しずつ可能となった.現在は固形の食物は通常箸でほぼ摂取できるようになった.清拭では殿部を拭く際の姿勢保持練習や,殿部へのリーチ練習,トイレでの動作練習など実施し,数か月後自宅環境にて自力で可能となった.現在はほとんど自分で拭けているが,最終確認は家族が行っている.これらの介入では競争の要素を入れたり,成果を視覚化するなどの工夫を行い,事例が意欲的に行えるようにした.就学に向けた母親への支援:学校生活のイメージが具体化するよう,学校環境の確認や実場面での動作確認の必要性などを説明した.教室移動や階段,トイレなどでの実際の動作を動画に撮ってもらい工夫点(どこを支えて便器に移乗するかなど)の助言を行った.また学校生活での心身への影響や,認知的な難しさが学業に与える可能性などを説明し,入学してからも継続的な支援が必要であることを伝えた.
【結果】
PEDIはセルフケア59→68点,移動41→48点に向上し,COPM(遂行度/満足度)は目標①1→7/1→6,目標②7→10/2→7に向上した.就学に向けて支援の必要な部分などが整理でき,母親からは学校生活に対する具体的なイメージや長期的かつ継続的な支援の必要性の理解に対する発言がきかれるようになった.
【考察】
今回,ADL面で段階的な介入と事例の意欲を引き出す工夫を行うことで自立度を向上できたと考える.また,学校での動作や環境,入学してからの生活について母親と話し合い,学校生活のイメージを具体化する支援を行ったことで,就学に向けた多面的な視点を母親と共有することができた.これにより継続的な支援の必要性の理解向上や,スムーズな就学準備につなげることができたと考える.今後も学校生活の情報共有に努め,必要に応じて学校との連携を検討しながら継続的に支援していきたい.