第56回日本作業療法学会

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一般演題

発達障害

[OI-1] 一般演題:発達障害 1

Fri. Sep 16, 2022 2:30 PM - 3:30 PM 第8会場 (RoomE)

座長:笹田 哲(神奈川県立保健福祉大学大学院)

[OI-1-2] 口述発表:発達障害 1発達に特性がある児童へのICTツールを用いた学習支援に関する予備的検討

高島 聡江1中岡 和代2福永 寿紀3川崎 一平4田中 克明5 (1合同会社BASEともかな FLOW郡山,2大阪府立大学大学院 総合リハビリテーション学研究科,3白鳳短期大学,4京都橘大学作業療法学科,5コクヨ株式会社)

【はじめに】作業療法士は発達に特性がある児童への学習支援を担っている.児童の特性,課題の難易度,環境等の評価を行い,保護者や学校教諭等と相談しながら支援を行う.筆者らはICTツールを用いることで外的動機づけとなり,児童が主体的に学習に取り組める契機となる可能性があるのではないかと考え,支援の一つとしてICTツールに着目した.本研究の目的は,発達に特性がある児童へのICTツールを用いた学習支援に関して予備的に検討することである.なお,本研究は研究倫理審査委員会の承認を受け (承認番号:21-35,2021-216),対象者に書面にて同意を得て実施した.
【方法】対象:学習に関して何らかの困り感を抱えており研究協力に同意が得られた児童11名と保護者.男児10名,女児1名,月齢平均107.7±18.2,自閉スペクトラム症(以下ASD)5名,注意欠如多動症(以下ADHD)2名,ASD+ADHD2名,ASD+知的障害2名,普通級在籍8名,支援級在籍3名であった.方法:ICTツールとしてコクヨ株式会社製のしゅくだいやる気ペンを用いた.しゅくだいやる気ペンは鉛筆に取り付けるデバイス型ツールであり,6軸センサーで学習遂行状況を記録しスマートフォン用のアプリケーションと連動して子どもが喜ぶ報酬を遂行した分だけ獲得できる仕組みになっている.導入では作業療法士と保護者で児童の意思確認を行い,使用は自宅にて児童,保護者に委ねた.その際,いつでも作業療法士に相談できるようにした.使用期間は1~3ヶ月であった.収集データ:使用前後の児童の様子について保護者へ自由記述式アンケートを実施した.分析:記述から使用前後の児童の変化を内容毎に抽出しラベルとした.次に意味内容の類似性に従って分類し名称をつけ一次カテゴリとし,同様の操作を繰り返し二次カテゴリまで分類した.分析は作業療法士4名で行い,全員の合意が得られるまで検討を繰り返した.
【結果】使用前後の児童の変化について56のラベルが抽出された.最終的に二次カテゴリ「宿題への取り組み(35)」「自主学習への取り組み(6)」「家族との関わり(5)」「学校生活の変化(4)」「楽しみが増える(4)」「その他(2)」の6つに集約された.「宿題への取り組み」では,宿題に自ら取り掛かるようになった,自身で計画を立てるようになった,宿題を行う時間が増えた等の変化が見られた.「自主学習への取り組み」では,宿題だけでなく,教材を新たに欲したり習い事への参加をするようになった.「家族との関わり」においては,学習の成果について家族に報告するようになった.「学校生活の変化」では,学校で宿題の残りをする必要がなくなり,休み時間に友達と遊ぶことができるようになった等の変化があった.「楽しみが増える」においては,ICTツールを使用することが楽しく,生活の中での楽しみが増えていた.「その他」では,ICTツールを大事に取り扱うようになった等の変化が見られた.
【考察】アンケートの分析結果より,学習に関して何らかの困り感を抱える児童が主体的に宿題へ取り組む等のポジティブな変化が多く見られた.ICTツール使用によって得られる報酬が外的動機づけとなり,取り組みに対する抵抗感を軽減させ,取り組む契機となったと考えられる.また,宿題への取り組みに留まらず,自主学習への取り組みや学校生活の変化に広がっており,外的動機づけから内的動機づけへと変化した可能性が考えられる.使用したICTツールであるしゅくだいやる気ペンは幾層もの報酬が設定されているため,児童にとって持続的な報酬となっていた可能性もある.今後は客観的な評価のもと障がい特性を含め検討を進めていく.