第56回日本作業療法学会

Presentation information

一般演題

発達障害

[OI-2] 一般演題:発達障害 2

Fri. Sep 16, 2022 3:40 PM - 4:50 PM 第8会場 (RoomE)

座長:中岡 和代(大阪公立大学)

[OI-2-1] 口述発表:発達障害 2児童発達支援事業所に通う幼児と定型発達児の手洗いにおける比較

松倉 裕理1立山 清美1大歳 太郎2中井 昭夫3中岡 和代1 (1大阪府立大学大学院,2関西医療大学 作業療法学科,3武庫川女子大学 教育研究所/子ども発達科学研究センター)

【はじめに】新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)対策として,手洗いが重視されている.第55回の本学会にて,児童発達支援事業所に通う幼児の手洗いの特徴を報告したが,手洗いが日常的にされているCOVID-19流行後の定型発達児のデータがなく,比較検討ができなかった.そこで本研究の目的は,児童発達支援事業所に通う幼児(以下,児発群)と定型発達児(以下,TD群)の手洗いの特徴を明らかにし,手洗い指導への示唆を得ることとした.
【方法】対象:児発群は,A事業所に通う4〜6歳とし,発達指数(以下,DQ)70未満の者は除外した.TD群は,B幼稚園に通う幼児で,発達の遅れの指摘があった者は除外し,児発群と月齢,性別をマッチングさせた.調査方法:1)DQの算出にはKIDS乳幼児発達スケール(児発群のみ),2)協調運動の指標は,5歳児以上にはDevelopmental Coordination Disorder Questionnaire(DCDQ)日本語版(Nakaiら,2011),4歳児はLittle DCDQ日本語版(中井,2013)を用いた.3)手洗いは,洗い残し測定用の蛍光ローションを付けた後,丁寧に洗うよう伝え,石鹸(プッシュ式)を用いてレバー式の蛇口で実施し,ビデオ撮影を行った.評価は,手洗いの遂行度(手洗い得点)と洗い残しの2つの観点で行った.手洗い得点は,「手洗い評価チェックリスト(平元ら,2003を一部修正)」を用い,手洗いの手順に沿って9項目を段階評価(0-20点,点数が高いと遂行度も高い)し,手洗い時間を計測した.洗い残しの評価は,ブラックライト(スタンド型手洗いチェッカーBLB,サラヤ)下で蛍光ローションが残る部位を観察し,手の背側,掌側各6部位×左右 (0-24点,大久保,2013) で採点した.また,部位ごとに洗い残した人数割合(%)を算出した.分析:2群比較には,Mann-WhitneyのU検定,カイ2乗検定を用いた.統計解析には,SPSS ver.26(IBM社製)を用い,有意水準は5%未満とした.なお本研究は,所属機関の研究倫理審査委員会の承認(2019-216)を得て実施した.
【結果】児発群36名(男25名,女11名,月齢平均60.1±6.8),TD群36名(男25名,女11名,月齢平均60.4±6.9)が対象となった.児発群のDQは平均88.1±10.0で,診断を受けている14名中11名が自閉スペクトラム症であった.DCDQ,Little DCDQの得点は,いずれも児発群がTD群より有意に低かった(p<0.001).手洗いの遂行度は,児発群が中央値15.0点(13.0-17.3)に対し,TD群が17.0点(15.8-18.0)と児発群が有意に低かった(p=0.004).下位項目では,9項目中,「流水の調節」「腕を汚さないような手の位置をとる」「両手をしっかりこすり合わせる」等,6項目に有意差を認めた.手洗い時間の中央値は,児発群が39.5(10-119)秒,TD群が45.5(15-102)秒で,有意な差はなかった(p=0.203).洗い残しは,児発群が中央値19.0点(14.0-21.0),TD群が10.0点(7.8-14.3)で児発群に洗い残しが多かった(p<0.001).両群ともに掌側より背側に洗い残しが多かったが,掌側の指や指先の洗い残しは,TD群は少なく児発群は多かった.
【考察】COVID-19対策として手洗い指導が十分に行われている2群の手洗いを比較した結果,児発群は手洗いの遂行度を示す手洗い得点が低く,洗い残しも多かった.遂行では,流水量の調整といった力加減を要するもの,遂行中の手の位置,両手の協調性といった協調運動機能に関連する項目で差が認められた.その要因として,対象となった児発群はDQで明らかな発達の遅れはないが,協調運動の指標はTD群より有意に低く,協調運動機能の低さが手洗いに影響した可能性が考えられる.