[OI-2-2] 口述発表:発達障害 2自閉スペクトラム症児のくすぐりに対する対人的反応に関する探索的検証
【序論】
自閉スペクトラム症(ASD)は,社会的コミュニケーション・対人的相互反応の欠陥と行動, 興味,または活動の限定された反復的様式を中核とした症候群である.ASD児は保護者とのアタッチメントを築き難い傾向があり(Rutgers et al., 2004),日常生活で我が子との関りに苦慮している保護者も少なくない.小児期の作業療法では家族中心のアプローチが重視されており,保護者支援は不可欠なものとなっている(Hanna & Rodger, 2002).子どもは遊びを通して多くのことを経験学習していくが,対人的関りもその例外ではない.特に,接触を伴う関りは対人交流の基盤にあるとされ(Cascio etal., 2019),くすぐり遊びは日常的に親子間で行われる遊びの1つである.くすぐりは他者の存在によって成り立つ特殊な触覚刺激でもあるが,多くのASD児は対人的な行動特性に加えて,過剰反応など感覚処理障害を示す.そのため,くすぐり遊びでの親子の対人交流において,定型発達(TD)児とは異なる特徴を示すことが示唆される.
【目的】
本研究では,親子間でのくすぐり遊び中のASD児の視線を計測し,保護者が児をくすぐろうとする際に保護者の顔に対する注視がTD児と同様にみられるかを探索的に検証した.ASD児のくすぐり遊び中の対人的反応が明らかになれば,遊びを通したより良い親子の関りを支援するための新たな視点につながると考える.
【方法】
対象:就学前児(平均月齢:64.83±10.68) 6名[ASD児3名(男児2名,女児1名),TD児3名(男児1名,女児2名)].ASD児には医療機関での診断に加えて,自閉症診断観察検査第2版(ADOS-2)を実施しASDの傾向を確認した.また,知能指数(IQ)の算出にはWPPSI-Ⅲ,発達指数(DQ)の算出には新版K式発達検査2001を用いた.実施方法:子どもは保護者と対面で座り,保護者は録音された音声に合わせ,子どもの身体部位(腹部,頸部,腋窩部,脚部,保護者の選択部位)を2回ずつ計10試行くすぐるように教示された.子どもは,視線を計測するために視線計測装置Tobii Pro Grasses 2(サンプリング周波数50 Hz,フレームレート25 fps)を装着し,親子の関りの様子は2台のビデオカメラにて記録した.解析方法:データ解析にはTobii Pro Labを使用した.保護者の顔領域をAreas of Interest(AOI)に設定し,保護者の行為を期待するフェーズ(「○○をくすぐります」という音声指示からくすぐるまでの間)に記録された注視回数(回)と注視時間の割合(%)を算出した.また,保護者が自ら子どもの視線を捉えようとする行為が観察された場合を1として,10試行中に何回観察されたかを記録した.本研究は,K大学倫理審査委員会の承認を得て,児と保護者の同意に基づき実施された.
【結果】
ASD児(A,B,C)の注視回数は(9,38,3),注視時間の割合は(1.8%,14.2%,1.3%)となり,TD児(D,E,F)の回数(22,64,27),割合(4.7%,26.2%,9.6%)と比較して,3名中2名で回数・割合共に低い値を示した.子どもの視線を捉えようとする保護者の行為の出現回数は,ASD児(A,B,C)で(2,6,2)となり,TD児(D,E,F)では(4,0,1)となった.1名のASD児(B)は,DQが70以下であった(平均:ASD 89.67±28.8,TD 117.67±9.46).
【考察】
本研究では,親子間のくすぐり遊び中のASD児の視線に着目し,TD児との傾向の違いを探索的に検証した.結果,2名のASD児では保護者の行為を期待するフェーズで,顔を注視し意図を読み取ろうとする傾向が少ないことが示唆された.注視が多かったASD児では,保護者が子どもの視線を捉える行為が多く観察され,この様な保護者の関りがASD児との非言語的コミュニケーションに有効である可能性も示唆された.
自閉スペクトラム症(ASD)は,社会的コミュニケーション・対人的相互反応の欠陥と行動, 興味,または活動の限定された反復的様式を中核とした症候群である.ASD児は保護者とのアタッチメントを築き難い傾向があり(Rutgers et al., 2004),日常生活で我が子との関りに苦慮している保護者も少なくない.小児期の作業療法では家族中心のアプローチが重視されており,保護者支援は不可欠なものとなっている(Hanna & Rodger, 2002).子どもは遊びを通して多くのことを経験学習していくが,対人的関りもその例外ではない.特に,接触を伴う関りは対人交流の基盤にあるとされ(Cascio etal., 2019),くすぐり遊びは日常的に親子間で行われる遊びの1つである.くすぐりは他者の存在によって成り立つ特殊な触覚刺激でもあるが,多くのASD児は対人的な行動特性に加えて,過剰反応など感覚処理障害を示す.そのため,くすぐり遊びでの親子の対人交流において,定型発達(TD)児とは異なる特徴を示すことが示唆される.
【目的】
本研究では,親子間でのくすぐり遊び中のASD児の視線を計測し,保護者が児をくすぐろうとする際に保護者の顔に対する注視がTD児と同様にみられるかを探索的に検証した.ASD児のくすぐり遊び中の対人的反応が明らかになれば,遊びを通したより良い親子の関りを支援するための新たな視点につながると考える.
【方法】
対象:就学前児(平均月齢:64.83±10.68) 6名[ASD児3名(男児2名,女児1名),TD児3名(男児1名,女児2名)].ASD児には医療機関での診断に加えて,自閉症診断観察検査第2版(ADOS-2)を実施しASDの傾向を確認した.また,知能指数(IQ)の算出にはWPPSI-Ⅲ,発達指数(DQ)の算出には新版K式発達検査2001を用いた.実施方法:子どもは保護者と対面で座り,保護者は録音された音声に合わせ,子どもの身体部位(腹部,頸部,腋窩部,脚部,保護者の選択部位)を2回ずつ計10試行くすぐるように教示された.子どもは,視線を計測するために視線計測装置Tobii Pro Grasses 2(サンプリング周波数50 Hz,フレームレート25 fps)を装着し,親子の関りの様子は2台のビデオカメラにて記録した.解析方法:データ解析にはTobii Pro Labを使用した.保護者の顔領域をAreas of Interest(AOI)に設定し,保護者の行為を期待するフェーズ(「○○をくすぐります」という音声指示からくすぐるまでの間)に記録された注視回数(回)と注視時間の割合(%)を算出した.また,保護者が自ら子どもの視線を捉えようとする行為が観察された場合を1として,10試行中に何回観察されたかを記録した.本研究は,K大学倫理審査委員会の承認を得て,児と保護者の同意に基づき実施された.
【結果】
ASD児(A,B,C)の注視回数は(9,38,3),注視時間の割合は(1.8%,14.2%,1.3%)となり,TD児(D,E,F)の回数(22,64,27),割合(4.7%,26.2%,9.6%)と比較して,3名中2名で回数・割合共に低い値を示した.子どもの視線を捉えようとする保護者の行為の出現回数は,ASD児(A,B,C)で(2,6,2)となり,TD児(D,E,F)では(4,0,1)となった.1名のASD児(B)は,DQが70以下であった(平均:ASD 89.67±28.8,TD 117.67±9.46).
【考察】
本研究では,親子間のくすぐり遊び中のASD児の視線に着目し,TD児との傾向の違いを探索的に検証した.結果,2名のASD児では保護者の行為を期待するフェーズで,顔を注視し意図を読み取ろうとする傾向が少ないことが示唆された.注視が多かったASD児では,保護者が子どもの視線を捉える行為が多く観察され,この様な保護者の関りがASD児との非言語的コミュニケーションに有効である可能性も示唆された.