[OJ-2-2] 口述発表:高齢期 2作業の意味に焦点化した協業により,作業遂行の改善と新たな作業の可能化に至った認知症高齢者の事例
【序論】今回,認知機能と身体機能の低下により,意味のある作業を病前の作業形態で遂行することが困難になった事例に対し,作業の意味に着目し作業形態を変え協業した結果,作業遂行の改善と新たな作業の可能化に繋がった為報告する.本報告に際し,本人とその家族に書面にて説明を行い,同意を得た.
【事例紹介】80歳代男性,前頭側頭型認知症.妻と二人暮らし.家具職人として30年以上勤め上げた.性格は内向的で大人しい.70歳代後半から,社会的逸脱行為が出現し,その後も迷惑行為が続き,当院認知症治療病棟に入院.Mini-Mental State Examination,長谷川式認知症スケールは共に18点.認知症行動障害尺度(以下,DBD)は24点で,唾を吐き続ける行為や棟内の備品を破壊する行為が見られた.
【作業療法評価・介入計画】カナダ作業遂行測定(以下,COPM)を実施し,意味のある作業を共有したところ,「家具製作」が挙がり,手を使って物作りをすることが好きで家具職人になり,休日も仕事に行くほどやりがいを感じていたと作業の意味を語った.「家具製作」の遂行度は5点,満足度は2点であった.観察評価では,木製の収納ボックスを製作するが,手順の誤りが見られた他,ドライバーでネジを十分に締めることが困難な様子や収納ボックスを持ち上げる際にバランスを崩す様子が見られ,認知機能,身体機能の低下が窺えた.Clinical Dementia Rating(以下,CDR)を実施した結果では,「判断力と問題解決」の項目で低下が見られた.また,生活場面の様子を観察したところ,上肢の筋力低下,円背の影響による立位バランスの低下が見られた.以上より,病前の作業形態での家具製作は,多くの援助や努力が必要であった.その為,「手を使って物を作ることが好き」という作業の意味を満たしながら作業形態を変える方法が必要と考えられたが,安易に作業形態を変更することは,アイデンティティの喪失に繋がる恐れがあった為,事例と話し合いを行なった.その結果,ボール紙で作成するミニチュアのタンス作りを希望し,「自宅で創作キットを使用して物作りをする」ことを作業療法目標として共有した.
【経過】ミニチュアタンス作りでは,工程ごとに視覚的レクチャーを交え説明することで,1工程分を組み立てることができた.真剣な表情を見せ,習慣的に取り組んだ結果,約3週間でミニチュアタンスが完成した.「割と上手くできたな」と微笑みながら語った他,ナースステーションに作品を飾ると嬉しそうな表情を浮かべた.その後,ボール紙を使用したティッシュケースやリモコンラックなど様々な作品に意欲的に取り組むようになった.
【結果】COPMにて再評価を実施し,「家具製作」は遂行度7点,満足度8点に向上した.また,新たに「小物作り」を希望として挙げ,遂行度7点,満足度8点であった.CDRのスコアに変化は無かったが,DBDは17点と改善し,取り組み中に周辺症状は見られなかった.
【考察】認知症者において,重要な作業との結びつきは行動・心理症状を軽減し,生活の質を向上させると言われる(Travers,2016).本事例も,重要な作業に結びつくことで周辺症状の改善に繋がったと考える.また,作業の意味に着目した関わりは,「家具製作」の遂行度,満足度を向上させ,「小物作り」という新たな作業の可能化に繋がった.遂行が困難となった作業の中に内包された「意味」を確認し,それを満たせるよう新たな作業形態を共に考え,可能化に向け協業することは,作業療法士として重要な役割であると考える.
【事例紹介】80歳代男性,前頭側頭型認知症.妻と二人暮らし.家具職人として30年以上勤め上げた.性格は内向的で大人しい.70歳代後半から,社会的逸脱行為が出現し,その後も迷惑行為が続き,当院認知症治療病棟に入院.Mini-Mental State Examination,長谷川式認知症スケールは共に18点.認知症行動障害尺度(以下,DBD)は24点で,唾を吐き続ける行為や棟内の備品を破壊する行為が見られた.
【作業療法評価・介入計画】カナダ作業遂行測定(以下,COPM)を実施し,意味のある作業を共有したところ,「家具製作」が挙がり,手を使って物作りをすることが好きで家具職人になり,休日も仕事に行くほどやりがいを感じていたと作業の意味を語った.「家具製作」の遂行度は5点,満足度は2点であった.観察評価では,木製の収納ボックスを製作するが,手順の誤りが見られた他,ドライバーでネジを十分に締めることが困難な様子や収納ボックスを持ち上げる際にバランスを崩す様子が見られ,認知機能,身体機能の低下が窺えた.Clinical Dementia Rating(以下,CDR)を実施した結果では,「判断力と問題解決」の項目で低下が見られた.また,生活場面の様子を観察したところ,上肢の筋力低下,円背の影響による立位バランスの低下が見られた.以上より,病前の作業形態での家具製作は,多くの援助や努力が必要であった.その為,「手を使って物を作ることが好き」という作業の意味を満たしながら作業形態を変える方法が必要と考えられたが,安易に作業形態を変更することは,アイデンティティの喪失に繋がる恐れがあった為,事例と話し合いを行なった.その結果,ボール紙で作成するミニチュアのタンス作りを希望し,「自宅で創作キットを使用して物作りをする」ことを作業療法目標として共有した.
【経過】ミニチュアタンス作りでは,工程ごとに視覚的レクチャーを交え説明することで,1工程分を組み立てることができた.真剣な表情を見せ,習慣的に取り組んだ結果,約3週間でミニチュアタンスが完成した.「割と上手くできたな」と微笑みながら語った他,ナースステーションに作品を飾ると嬉しそうな表情を浮かべた.その後,ボール紙を使用したティッシュケースやリモコンラックなど様々な作品に意欲的に取り組むようになった.
【結果】COPMにて再評価を実施し,「家具製作」は遂行度7点,満足度8点に向上した.また,新たに「小物作り」を希望として挙げ,遂行度7点,満足度8点であった.CDRのスコアに変化は無かったが,DBDは17点と改善し,取り組み中に周辺症状は見られなかった.
【考察】認知症者において,重要な作業との結びつきは行動・心理症状を軽減し,生活の質を向上させると言われる(Travers,2016).本事例も,重要な作業に結びつくことで周辺症状の改善に繋がったと考える.また,作業の意味に着目した関わりは,「家具製作」の遂行度,満足度を向上させ,「小物作り」という新たな作業の可能化に繋がった.遂行が困難となった作業の中に内包された「意味」を確認し,それを満たせるよう新たな作業形態を共に考え,可能化に向け協業することは,作業療法士として重要な役割であると考える.