第56回日本作業療法学会

Presentation information

一般演題

高齢期

[OJ-3] 一般演題:高齢期 3

Sat. Sep 17, 2022 9:00 AM - 10:00 AM 第7会場 (RoomD)

座長:小池 祐士(埼玉県立大学)

[OJ-3-1] 口述発表:高齢期 3骨折患者における抑うつとFIM利得の関連

荒木 俊二1佐藤 圭祐2座覇 政成1千知岩 伸匡2尾川 貴洋2 (1ちゅうざん病院リハビリテーション 療法部,2ちゅうざん病院臨床教育研究センター)

【はじめに】
 骨折の発症率は加齢と共に増加し,骨折後の精神心理症状の1つに抑うつがある.抑うつは骨折患者の9〜47%に生じ,Activity of Daily Living (ADL)や移動の自立度を低下させる因子と報告されている.しかし,先行研究では大腿骨近位部骨折を対象としたものが多く,一貫した結論が得られていない.この関連を明らかにすることは,骨折患者に対する精神心理機能の評価・作業療法の重要性の再認識,FIM利得の向上に役立つと考えられる.
【目的】
 本研究は当院回復期リハビリテーション(リハ)病棟にリハ目的で入院した骨折患者のうち,抑うつとFIM利得の関連を検討することを目的とした.
【方法】
 本研究は単施設後向き観察研究とした.対象は,2018年8月から2020年10月に6つの回復期リハ病棟のうち1つの病棟に入院し退院した骨折患者である.救急搬送となり転院となった者,データの欠損がある者は除外した.本研究は,当院の倫理審査委員会の承認を受け,個人情報の取り扱いに十分な配慮のもと実施した.また,本研究は診療記録のみを用いた研究のため研究対象者から直接同意を得ることを免除されたが,オプトアウトをし,拒否の機会を保障した.調査項目は,年齢,性別,骨折のタイプ,入院時Geriatric Depression Scale15(GDS15),入院時Body Mass Index(BMI),入院時Mini-Mental State Examination(MMSE),入退院時Functional Independence Measure(FIM),在院日数, 1日あたりの平均リハ量とした. 今回は,Morghen S. らの基準を参考に,GDS15の合計点が6点以上の者を抑うつ群とし,0-5点の者を対照群と定義した.各項目を抑うつ群と対照群の2群間における比較を行ったのちに,重回帰分析を用いて抑うつとFIM利得の関連を検討した.説明変数はFIM利得に影響すると考えられる因子を投入した.統計解析はEZRを使用し,有意水準は5%未満とした.
【結果】
 研究期間中の骨折患者は183名であり,除外基準に該当しなかった127名を本研究の対象とした.年齢の中央値は76.5歳(40.0-83.0),女性92名(72.4%),男性35名(27.6%),大腿骨骨折62名(48.8%),脊椎骨折43名(33.9%),他の骨折22名(17.3%)であった.抑うつ群71名(55.9%),対照群56名(44.1%)であった.入院時BMIは22.7kg/m2(19.7-25.1),入院時MMSEは20点(16.0-25.5),FIMは67.2±16.3点であった.在院日数は58.0日(41.5-73.0),1日あたりの平均リハ量は123.2(114.1-138.5)だった.FIM利得を目的変数とした重回帰分析の結果,抑うつ群(回帰係数推定値:-6.529,95%信頼区間:-12.053 to 1.005,P=0.021)はFIM利得と独立して関連していた.
【考察】
骨折患者の抑うつはFIM利得を低下させた.先行研究において, 大腿骨近位部骨折患者の機能的転帰を低下させる因子に,認知機能や病前ADLの低下,低栄養などが挙げられている.本研究では単変量解析で,抑うつ群が入院時BMIやMMSE,FIMが低かった.このことから,回復期入院前からADLが低く,FIMの改善が十分に得られなかった可能性がある.また,ADLの低下は低活動を引き起こし,生活範囲を狭小化させ,コミュニケーション機会の減少をもたらした可能性がある.上記のような低刺激な生活は骨折患者の抑うつを促進した可能性がある.以上のことから,骨折患者においても, 入院時の身体機能だけでなく抑うつなどの精神心理機能に焦点を当てた評価,介入が必要と考える.
今後は栄養に関する指標を加えた前向き研究によってさらなる検証が必要と考えられた.