第56回日本作業療法学会

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一般演題

高齢期

[OJ-3] 一般演題:高齢期 3

Sat. Sep 17, 2022 9:00 AM - 10:00 AM 第7会場 (RoomD)

座長:小池 祐士(埼玉県立大学)

[OJ-3-2] 口述発表:高齢期 3リハスタッフと介護スタッフが重要視する申し送り内容の相違

上田 奈央1加藤 康太1泉沢 祐樹1伊藤 卓也1 (1医療法人社団主体会 主体会病院総合リハビリテーションセンター)

【目的】
近年,高齢化に伴い認知症を有する者が増加しており,回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)においても,認知症を有する骨折患者は増加傾向にある.当院回復期病棟では,退院時の患者状況等について,退院後利用する介護保険サービスのケアマネージャー,看護師,介護士等の介護スタッフに申し送りを実施している.しかし,介護スタッフがどのような情報を必要としているかは明らかになっていない.また,認知症を有する患者は,介護スタッフに正確な状況を説明することができないため,退院時の申し送りは重要であると考える.そこで本研究は,認知機能が低下した骨折患者における申し送り内容について,介護スタッフがどのような情報を重要と感じているかを明らかにし,リハスタッフとの差異を分析することを目的とした.
【方法】
対象は,当院回復期病棟に所属しているリハスタッフ19名と,介護保険サービスの事業所や施設に所属している介護スタッフ45名とした.なお,認知機能が低下した骨折患者の担当・申し送り経験がない者は除外した.方法は,質問紙による無記名式アンケート調査を行った.質問内容はADL,認知機能,生活歴などに関する28項目に対して,申し送りの際の重要度について5段階評価(5:非常に重要~1:全く重要でない)にて回答を求めた.統計処理は,リハスタッフ群と介護スタッフ群における各項目の重要度について,4:やや重要,5:非常に重要と回答した者の割合を算出し,重要度(%)をプロットした.本研究は当院倫理委員会にて承認を得て実施した.
【結果】
両群ともに重要度が平均値よりも高かった項目は,「疼痛」,「歩行補助具」,「危険認識」,「転倒」,「認知機能」,「精神状態と行動パターン」,「歩行動作」,「トイレ動作」,「更衣動作」,「介助の必要性」,「見守り動作」,「余暇活動」,「現在の生活習慣」,「現在の誇り」,「人柄・性格」の15項目であった.介護スタッフのみ重要度が平均値より高かった項目は,「リハ内容」,「リハ中の様子」,「本人へのアドバイス」,「入浴動作」,「印象に残っている姿」の5項目であった.
【考察】
両群ともに重要度が高かった項目については,双方が重要と考えている項目であり,今後も具体的に申し送りに記載していく必要がある.重要度が不一致であったもの,特に介護スタッフにのみ重要度が高かった5項目は,リハスタッフで周知して申し送りに取り入れていく必要がある.「リハ中の様子」や「リハ内容」,「本人に行ったアドバイス」について,認知機能が低下した骨折患者は病識低下を認め,動作や活動への意欲を引き出すために工夫が必要なことも少なくない.そのため,リハビリを実施した結果だけではなく,意図やリハビリ中の本人の様子も併せて申し送りをすることで,介護現場でも同じ方法で誘導することが可能であると考える.「入浴動作」は身体機能に合わせた環境設定が必要であり,個別性が高く工程も多いため,介助の難易度は高いと思われる.さらに認知機能が低下した患者は危険認識や病識が低下しており,転倒リスクも高い.そのため,介護保険サービスを利用した入浴が想定された場合でも,リハスタッフが積極的に入浴時の環境設定や介助方法を検討していく必要があると考える.また,「印象に残っている姿」を知ることで,患者の人間性や特徴を知ることにもつながる.身体機能やADL能力だけではなく,患者自身の行動についてのエピソードを交えた情報を申し送る必要性が示唆された.