第56回日本作業療法学会

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一般演題

高齢期

[OJ-4] 一般演題:高齢期 4

Sat. Sep 17, 2022 1:40 PM - 2:40 PM 第7会場 (RoomD)

座長:菅野 圭子(佛教大学)

[OJ-4-2] 口述発表:高齢期 4行動変容の段階を考慮しながら病前役割の再認識による意欲向上を図り,活動参加に改善を認めた事例

畠山 知大1 (1竹川病院)

【はじめに】行動変容の段階について,本人の心の状態に応じて「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」と分けられる(諏訪,2014)今回,無関心期~準備期の中で,生活全般への意欲が低下した症例に対し,病前役割を意識し,行動変容の段階に応じた働きかけを行ったことで意欲の向上へ繋がったため報告する.
【症例紹介】80歳代前半の男性,右利き.自宅階段で転倒され右半球の外傷性急性硬膜下血腫を発症し,9病日に回復期リハビリテーション病棟に入棟した.生活歴:妻・長男と同居.既往のくも膜下出血で左片麻痺,注意障害が残存しており,ADLは杖歩行見守り,IADLは全て妻が行っていた.テニスの指導員をしており,テニス指導や友人との会食が習慣で,外出は友人が同行していた.症例報告にあたり対象者に同意を得た.
【初期評価(13病日)】意識レベル:JCSⅠ-2.左上肢BRS:上肢Ⅲ-手指Ⅱ.MMSE:19点.TMT-A:⑧で中止,TMT-B:実施困難. FIM運動項目:21点,認知項目:10点.人間作業モデルスクリーニングツール(以下MOHOST)では動機付けを中心に制限が認められた.意志質問紙(以下VQ):14点.「立てないし,左手も動かない」と消極的な発言が多かったが,テニスに関する話題も聞かれていた.ベッド上介入の希望が多く,20分程度の離床で疲労感が著明だった.硬膜下血種による運動麻痺は軽度だが,長期臥床による耐久性低下と生活全般への意欲低下が認められた.主治医からは意識レベル,運動麻痺は血種吸収に伴い改善が期待できると見解が得られた.
【方針と目標】病前役割の再認識による意欲向上を図り,指導員としてテニスクラブへの復帰を目標とした.
【方法と経過】本人の発言から,無関心期,関心期,準備期と期間を分類した.
無関心期(13病日~20病日):初期より「何もできない」と発言が聞かれた.そこで,テニスクラブの友人との手紙交換を行い,病前役割と友人との関係を認識できるよう促した.徐々に前向きな発言が増え,テニスがリハビリテーションに取り組むきっかけとなった.
関心期(21病日~35病日):テニスを模した動作練習を開始した.「支えがないと危ない」と自身の動作を認識し,「頑張りたい」と発言も聞かれた.
準備期(36病日~60病日):今後の転倒リスクを考慮し座位でのテニスへの参加を提案した.再度目標検討を行い,座位でも可能な範囲で指導ができることを最終目標とし,座位でのテニス動作を中心に実施した.退院が近づくにつれて,「仲間に会えるなら食事だけでも行きたい」と,テニス以外にも意欲が出現した.
【最終評価(60病日)】意識レベル:清明.右上肢BRS:上肢Ⅲ‐手指Ⅱ.MMSE:23点,TMT-A:119秒,TMT-B:実施困難. FIM運動項目:58点,認知項目:19点. MOHOSTでは作業に対する動機付けで改善を認めた.VQ:29点.日常生活や退院後に対して意欲的な発言が増加し,自発的に離床しリハビリテーションを待つ様子も見られるようになった.
【考察】本症例は,今回の発症による運動麻痺や高次脳機能障害は軽度だったが,心身の改善に対して消極的で,無関心期であったと推測された.その中で,テニスや友人との関わりが生活に対して前向きになるきっかけとなり,リハビリテーションや生活に対する行動にも変化が生じたと考えられる.また目的のある作業は動機づけとなり,新たな挑戦をすることにつながると報告されている(古松,2016).本症例にとってテニス指導員とは役割であり,同時に生活の中で大きな目的であったと考えられる.その為テニスという作業に取り組み,指導員という役割を再認識できたことで,意欲向上の一助となったと思われる.