[OJ-4-5] 口述発表:高齢期 4「もの忘れを防ぐ方法を学ぼう:料理・食事の支度編」講座と受講者アンケート
【はじめに】「もの忘れを補う方法を学ぼう」講座は,認知症発症前の高齢者向けの認知症予防プログラムである.開発にあたっては,認知障害が軽度の段階で,高齢者がもの忘れを補う方法を習得すれば,障害の進行後も,自立的な生活を継続することができた自験例や,類似プログラムで,参加者が認知機能低下という自らの経験をノーマライズすることが,彼らの情緒的安定や行動変容につながったとするVandermorrisら(2017)の研究を基盤としている.今回は,「見つからないを減らすために編」に続き2作目として「料理・食事の支度編」を作成した.料理に注目した理由は,長年,家族のために実施してきた人にとっては,自らの役割を確認し,自信にもつながりやすい作業で,かつ健康維持に必須ではあるが,認知機能低下が軽度であっても支障が出やすく,火気や刃物を扱うため,見守り下で遂行可能な能力水準であっても,早期に遂行中止になりやすい作業であり,高齢者の自立支援のニーズが高いと考えたからである.講座では,もの忘れの原因や日常生活における支障の実際をスライドや動画で示した後に,コンロでの鍋焦がしを防ぐ工夫の例として電子レンジで肉じゃがを作る方法や,冷蔵庫内で食品が見つからず,腐らせてしまうのを防ぐための庫内の整理法を紹介する.最後に,もの忘れが進む前に覚えておけば,料理・食事の支度ができる・続けられるというメッセージを伝えて約20分間で終了する.【目的】「もの忘れを補う方法を学ぼう:料理・食事の支度編」講座が,高齢者に分かりやすいか,面白いか,役立つかを調べることである.【方法】認知症カフェに参加した高齢者に講座を聴いていただき,アンケートを実施した.アンケートでは,「分かりやすいか」「面白いか」「役に立つか」の質問に5段階で回答を求めた.感想は自由回答とした.年齢,性別,料理の頻度,もの忘れの心配の程度についても質問した.60歳以上の人の結果を集計した.なお,本研究は信州大学医学部医倫理委員会の承認を得て実施した.【結果】回答者38名の平均年齢は79.7±8.59歳,女性31名(77%)であった.料理の頻度は,「自分でする」が30名(78%)で最も多かったが,あまりしない人も含まれていた.もの忘れの心配は,非常に・かなり心配な人が18名(47%)と多かったが,心配の少ない人もいた.「分かりやすいか」の質問に,27名(71%)が非常に,11名(29%)がかなり分かりやすいと回答した.「面白いか」では,非常に・かなり面白いと回答した人は合わせて27名(71%)であった.「役立つか」では,「非常に・かなり役立つ」と回答した人は,講座の内容別に,もの忘れの原因や支障で31名(81%),電子レンジ料理で30名(79%),冷蔵庫の整理法で34名(89%)であった.感想として「高齢の母がいて,鍋を焦がすこともあるので,電子レンジを多く使いたい」「食品を温めることだけに使う人には,電子レンジを調理に使うのは難しい」「冷蔵庫にスペースがないのに,確認せずに食品を購入することもあるので,他人事ではないと感じた」「冷蔵庫の整理は,家族の考えもあるので,難しい」などがあった.【考察】本講座は,第1作目と同様に,高齢者にとって概ね分かりやすく,面白く,役に立つ内容であることが示された.今後,この種のことに興味を持っていただく高齢者を増やし,実際に実施していただくためには,もっと多様な作業を取り上げて講座をシリーズ化して開催したり,具体的な方法の習得までを目指すアドバンスコースを開設するなどの取り組みが必要であり,演者らも取り組んでいるところである.