第56回日本作業療法学会

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一般演題

高齢期

[OJ-4] 一般演題:高齢期 4

Sat. Sep 17, 2022 1:40 PM - 2:40 PM 第7会場 (RoomD)

座長:菅野 圭子(佛教大学)

[OJ-4-4] 口述発表:高齢期 4生活環境が幻視に影響していたレビー小体型認知症患者に対する環境調整介入の一例

石丸 大貴12堀田 牧2永田 優馬2鐘本 英輝2池田 学2 (1大阪大学医学部附属病院医療技術部 リハビリ部門神経科・精神科,2大阪大学大学院精神医学教室)

【はじめに】
 レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies; DLB)において,幻視は中核的特徴の一つであり,しばしば妄想や混乱に繋がり,家族の介護負担の増加も引き起こす.幻視の出現には複数の要因が関与しているなか,錯視の特徴を有する例も一部あることから,生活環境の調整が有用となる可能性がある.しかしながら,生活環境の調整に至るまでの評価や手順を具体的に示した報告はなく,幻視に対する生活支援の手法は十分に確立されていない.本報告では,外来DLB患者の一例に試みた,訪問指導を必要としない環境調整介入のプロセスとその経過を示す.なお,発表に際して,本人・家族より口頭・書面で同意を得ている.
【症例提示】
 症例はDLBの診断を受けた70歳代後半の女性で,当科外来に通院中の患者である.発症から8年経過しており,Mini-Mental State Examinationは11/30であった.全般的な認知機能障害に加えてパーキンソン症状や認知機能変動の影響もあり,日常生活動作の一部は同居の夫から介助を受けて生活を送っていた.本症例の主な生活上の問題点は幻視と付随する混乱であり,それらの改善を目的に作業療法士の介入が開始となった.
 本症例の幻視の特徴として,主体は子供であることが多く,頻度は毎日で,夕方から夜間の時間帯にかけて生じる傾向にあった.訴える場所は家の中に限られていた.幻視に付随する言動として,「誰かが家に忍び込んでいる」と恐怖感を示すことがしばしばあった.幻視に関連する症状では,実体的意識性や錯視の症状が確認されていた.
【介入・経過】
 COVID-19の感染拡大のため,自宅に赴くことなく,カメラと撮影マニュアルを用いながら介護者からの協力を得て生活環境の評価を可能とする当科導入中のPhoto Assessment of Living Environment (PA-LE) (Ishimaru et al, in press)を活用して,生活環境ならびに幻視の出現状況について評価を進めた.生活環境の評価と患者・家族からの聴取を通して,①居間のソファ,②座卓の下,③寝室の壁が主な幻視の出現場所であることが確認された.①では,ソファ上のクッション,②では絨毯の模様,そして③ではハンガーに掛けられた衣服を見て「女の子が座っている」,「子供がテーブルの下に潜り込んでいる」,あるいは「誰かが部屋に来ている」などと訴えており,症例の幻視には錯視の側面が強いことが推察された.
 そこで環境に対する介入として,①幻視が生じやすい時間帯にクッションを目のつかない場所に移動させ,②座卓下の絨毯模様が視えないようにこたつ布団を机に掛けておき,③衣類は畳んで置いておくことなど,幻視を誘発する環境刺激の除去を提案した.さらに幻視の対象を触るといった幻視出現時の対応,そして,症例の不安を減じるための日々のケア対応も併せて提案した.
 家族により上述の環境調整がなされ,症例の幻視は1日に複数回生じる日もあるものの,約1ヶ月後には週に数日程度へ頻度は減少していた.また幻視が生じた際には,対象に触ることで幻視の消失を確認できており,幻視出現時も大きな混乱をきたすことなく過ごせている.
【まとめ】
 DLB患者の一部の幻視症状に対しては,本報告のPA-LEを通した支援のような,幻視症状の症候的特徴と生活環境の詳細を確認することで,有用な環境調整介入を提案できる可能性が考えられた.今後は,環境要因が強く関与している幻視の特徴や幻視を誘発しやすい環境要因の探索が重要であるだろう.