[OK-1-1] 口述発表:認知障害(高次脳機能障害を含む) 1面会制限がICUせん妄発症に与える影響
【序論】
ICUせん妄は,ICU在室日数や死亡率の増加,人工呼吸器装着期間の延長,認知機能の低下など長期予後に影響する合併症の一つである.せん妄発症のリスク因子には,準備因子,直接因子,促進因子の3つに分類し(Lipowski, 1990),せん妄予防にはこれら因子の排除が重要であるとされている(井上, 2019).しかしCOVID -19感染拡大による医療体制では,ICUにおける面会制限を余儀なくされ,せん妄予防の役割も担う家族の面会による促進因子に対するサポートが行えない状況となった.そこで本研究では,面会制限が当院ICUのせん妄発症に影響を及ぼすかを検討した.
【目的】
COVID -19による面会制限がせん妄発症に影響するかを検討することを目的とした.
【方法】
本研究は,当院ICU病棟へ入院された循環器内科,心臓血管外科患者を対象とした後ろ向き観察研究である.面会制限がせん妄発生率に与える影響を調査するために,面会制限がない2019年6月20日から12月27日までにICU病棟に入院された患者を対照群とし,面会制限のある2020年5月1日から12月9日までにICU病棟に入院された患者を面会制限群として2群化した.調査項目は年齢,性別,ICDSC score,せん妄の有無(ICSDC score≧4),脳血管疾患の既往及び発症の有無,ICU在室日数とした.2群間のベースライン評価には,Mann -Whitney U test, Fisher’s exact testを用いた.続いて,せん妄発症の有無(ICSDC score≧4)を目的変数とし,年齢,性別,脳血管疾患の既往及び発症の有無,面会制限の有無を説明変数としたlogistic regression modelを用いてせん妄発症に関連する因子を調査した.有意水準は5%未満とし,数値は中央値(四分位範囲)または数(%)で表記した.なお倫理的配慮として,当院の病院倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】
対象は,対照群159例,面会制限群183例の342例であった.患者特性では,対照群74(66-80)歳に対して面会制限群75(67-82)歳で有意差を認めず(P=0.52),性別も2群間で有意差を認めなかった(P=0.31).せん妄発症のリスク因子である脳血管疾患の既往及び発症の有無は,対照群38%に対して面会制限群58%で有意差を認めなかった(P=0.11).一方,ICU在室日数は対照群4(2-7)日に対して面会制限群5(3.0-8.5)日であり,面会制限群でICU在室日数が延長した(P=0.01).本研究のメインアウトカムであるせん妄発生率は,対照群11.9%に対して面会制限群14.2%で有意差を認めず(P=0.63),ICDSCの各項目の2群間比較も有意差を認めなかった.続いて,ICU入室患者全例のせん妄発症に関連する因子を調査した結果,年齢(OR 1.05,95%CI:1.02-1.09,P=0.003),脳血管疾患の既往及び発症(OR 2.75,95%CI:1.41-5.38,P=0.003)が独立したせん妄発症因子として同定された.
【考察】
本研究では,面会制限がせん妄発症の独立因子として抽出されなかったが,年齢,脳血管疾患の既往及び発症がせん妄発症の関連因子に同定された.先行研究では,家族面会制限がICU患者のせん妄発生率を増加させた(Kandori, 2020)報告と,減少させなかった(Goulart Rosa, 2019)報告の賛否両論であるが,本研究ではせん妄発生を減少させなかった研究を支持した.本研究では,年齢,脳血管疾患の既往及び発症がせん妄発症因子として同定されていることから,せん妄発症が促進因子のみならず,準備因子や直接因子が複合して影響しているため,面会制限単独ではせん妄発症に影響を及ぼさなかった可能性が考えられた.本研究の限界として,ICDSCの特性上,脳血管疾患の既往及び発症による認知機能障害や高次脳機能障害が含有している可能性がある.
ICUせん妄は,ICU在室日数や死亡率の増加,人工呼吸器装着期間の延長,認知機能の低下など長期予後に影響する合併症の一つである.せん妄発症のリスク因子には,準備因子,直接因子,促進因子の3つに分類し(Lipowski, 1990),せん妄予防にはこれら因子の排除が重要であるとされている(井上, 2019).しかしCOVID -19感染拡大による医療体制では,ICUにおける面会制限を余儀なくされ,せん妄予防の役割も担う家族の面会による促進因子に対するサポートが行えない状況となった.そこで本研究では,面会制限が当院ICUのせん妄発症に影響を及ぼすかを検討した.
【目的】
COVID -19による面会制限がせん妄発症に影響するかを検討することを目的とした.
【方法】
本研究は,当院ICU病棟へ入院された循環器内科,心臓血管外科患者を対象とした後ろ向き観察研究である.面会制限がせん妄発生率に与える影響を調査するために,面会制限がない2019年6月20日から12月27日までにICU病棟に入院された患者を対照群とし,面会制限のある2020年5月1日から12月9日までにICU病棟に入院された患者を面会制限群として2群化した.調査項目は年齢,性別,ICDSC score,せん妄の有無(ICSDC score≧4),脳血管疾患の既往及び発症の有無,ICU在室日数とした.2群間のベースライン評価には,Mann -Whitney U test, Fisher’s exact testを用いた.続いて,せん妄発症の有無(ICSDC score≧4)を目的変数とし,年齢,性別,脳血管疾患の既往及び発症の有無,面会制限の有無を説明変数としたlogistic regression modelを用いてせん妄発症に関連する因子を調査した.有意水準は5%未満とし,数値は中央値(四分位範囲)または数(%)で表記した.なお倫理的配慮として,当院の病院倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】
対象は,対照群159例,面会制限群183例の342例であった.患者特性では,対照群74(66-80)歳に対して面会制限群75(67-82)歳で有意差を認めず(P=0.52),性別も2群間で有意差を認めなかった(P=0.31).せん妄発症のリスク因子である脳血管疾患の既往及び発症の有無は,対照群38%に対して面会制限群58%で有意差を認めなかった(P=0.11).一方,ICU在室日数は対照群4(2-7)日に対して面会制限群5(3.0-8.5)日であり,面会制限群でICU在室日数が延長した(P=0.01).本研究のメインアウトカムであるせん妄発生率は,対照群11.9%に対して面会制限群14.2%で有意差を認めず(P=0.63),ICDSCの各項目の2群間比較も有意差を認めなかった.続いて,ICU入室患者全例のせん妄発症に関連する因子を調査した結果,年齢(OR 1.05,95%CI:1.02-1.09,P=0.003),脳血管疾患の既往及び発症(OR 2.75,95%CI:1.41-5.38,P=0.003)が独立したせん妄発症因子として同定された.
【考察】
本研究では,面会制限がせん妄発症の独立因子として抽出されなかったが,年齢,脳血管疾患の既往及び発症がせん妄発症の関連因子に同定された.先行研究では,家族面会制限がICU患者のせん妄発生率を増加させた(Kandori, 2020)報告と,減少させなかった(Goulart Rosa, 2019)報告の賛否両論であるが,本研究ではせん妄発生を減少させなかった研究を支持した.本研究では,年齢,脳血管疾患の既往及び発症がせん妄発症因子として同定されていることから,せん妄発症が促進因子のみならず,準備因子や直接因子が複合して影響しているため,面会制限単独ではせん妄発症に影響を及ぼさなかった可能性が考えられた.本研究の限界として,ICDSCの特性上,脳血管疾患の既往及び発症による認知機能障害や高次脳機能障害が含有している可能性がある.