第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-1] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む) 1

2022年9月16日(金) 14:30 〜 15:30 第7会場 (RoomD)

座長:長山 洋史(神奈川県立保健福祉大学)

[OK-1-4] 口述発表:認知障害(高次脳機能障害を含む) 1左後頭葉皮質下出血後半盲性難読を呈したが,介入により復職可能となった一例

伊藤 香織1荒川 秀樹2花田 恵介34平山 和美5 (1日本赤十字社大森赤十字病院リハビリテーション課,2日本赤十字社大森赤十字病院脳神経外科,3大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科,4医療法人錦秀会阪和記念病院リハビリテーション部,5山形県立保健医療大学作業療法学科)

【はじめに】脳血管患者の約30%に脳卒中後の視覚障害が生じる.後頭葉病変では著明な身体症状や高次脳機能障害がなく,視覚障害のみを呈する患者もいる.視覚障害のみが主症状であった症例の多くが,自宅退院後にIADLや復職場面で視覚障害の影響を感じる.今回,左後頭葉皮質下出血により身体に麻痺はなく右同名半盲等の視覚機能障害のみを呈した症例を経験した.ADLは自立し自宅退院したが,視覚による探索の障害,半盲性難読などの視覚機能障害により,メールや書類の確認・作成やパソコン操作などが出来ず復職困難であった.これらの障害に対し3ヶ月の外来リハビリを行い,復職可能となったため報告する.
【目的】視覚機能障害を呈した後頭葉出血患者に対し,適切なリハビリテーション介入の必要性について検討する.
【症例】48歳男性.会社員.右利き.視野欠損を自覚して受診,MRIにて左後頭葉皮質下に62㎜大の血腫を認め,入院.20日間の入院治療にて自宅生活可能となり退院.復職を目指しての外来OTが開始された.〔退院時神経学的所見〕意識清明,眼球運動正常,視力は遠見視力・近見視力ともに問題なし.右同名半盲あり.四肢に麻痺や感覚障害なし.〔神経心理学的所見〕覚醒良好,失語症や注意障害,半側空間無視,記銘力障害なし.MMSEは30/30.視覚機能では,視覚探索障害および半盲性難読あり.コントラスト感度,形態弁別に問題なし.
本研究に際して,本症例に研究の趣旨を十分に説明し,書面による同意を得て実施した.
【介入方法】視覚機能評価として,TMT-J,静止点数え,動く点数え,読字(数字,文章),パソコンでの文章入力を実施.訓練は半盲性難読のある患者の視覚障害への治療計画(Zihl, 2000)を基に,①注視と衝動性眼球運動による定位,②眼球運動による走査,③文章読み,④衝動性眼球運動の訓練,⑤パソコンによる文章入力を毎日の課題とし,週1回(40分/回)の外来OTにて状況確認,次の課題の提示,仕事の業務を状態に合わせ段階的に増やすように設定を行った.
【結果】最終評価時(第105病日)には,右同名半盲に変化はないが,TMT-J,静止点数え,文章音読,数字音読,動く点数えに速度の改善が認められた.パソコンでの文章入力の速度は大きく改善し,書類の読字速度も方策を獲得して向上,タイピングミスも減った.発症前よりデスクワークの作業速度は低下していたが,メールでのやりとり,書類の確認・作成,オンライン会議への参加も可能となり,職場の理解を得て,業務量の調整を行うことで復職可能となった.
【考察】半盲性難読による読字障害は,右半盲患者の90%,左半盲患者の76%に生じると報告されている.半盲性難読は衝動性眼球運動訓練による代償の獲得が可能である(Zihl, 1995).頭部の動きは衝動性眼球運動の大きさと時間経過に従う(Uehara et al, 1980)ため,眼球運動が頭部の動きより先に起こるのが自然な順序だが, これを逆にすると半盲性難読の眼と頭の協調運動に影響が出て(Zangemeister et al, 1982)視覚的探索を障害する(Kerkhoff et al, 1992).したがって,まずは衝動性眼球運動への介入が重要である.本症例では,詳細な評価を行い,衝動性眼球運動に対する訓練を基盤とした系統的リハビリを行うことで,読字やパソコン入力の速度が向上して復職が可能になった.脳血管疾患による視覚障害では,発症早期より詳細な評価を行い,病態を正しく理解し,適切なリハビリを行うことが重要であると考える.