第56回日本作業療法学会

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一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-2] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む) 2

Fri. Sep 16, 2022 3:40 PM - 4:50 PM 第7会場 (RoomD)

座長:生田 純一(農協共済中伊豆リハビリテーションセンター)

[OK-2-6] 口述発表:認知障害(高次脳機能障害を含む) 2タブレット版TrailMakingTestにおいて描線能力の低下と認知機能の低下が評価できた症例

齋藤 尚子1中村 大輔1古牧 典之1黒澤 一喜1森山 俊男2 (1栃木県医師会 塩原温泉病院リハビリテーションセンター,2栃木県医師会 塩原温泉病院)

【はじめに】注意機能の評価として,Trail Making Test(以下TMT)が広く用いられている.しかし,リーチ範囲の縮小,手指の巧緻性の低下,失調による描線能力の低下が阻害因子となり,臨床場面では実施困難な症例を多く経験する.そこで,当院では,描線能力の低下の影響を除外する目的で,タブレット版Trail Making Test(以下T-TMT)を考案した.我々の先行研究において,描線能力に問題の無い症例を対象にTMTとT-TMTの妥当性を検討した結果,相関係数r=0.80と相関が高い結果となった.また,我々の先行研究において,失調があり,TMTは300秒以上だったが,T-TMTは300秒以内で実施可能な症例について検討を行った.失調がありTMTが評価不能な症例でも,T-TMTは実施可能であったため,定期的に評価が行え,経過を追うことができた.しかし,この先行研究では描線能力,高次脳機能面の評価が不十分だったため,どのような要素が実施の可否に影響しているかは不明だった.今回,描線能力の評価として,運動失調の検査(International Cooperative Ataxia Rating Scale:以下ICARS)を追加し,高次脳機能面の評価として,CAT標準注意検査(順唱・逆唱:以下CAT)を追加した.これにより,TMT,T-TMTの実施に際して,描線能力,高次脳機能面がどのような影響を及ぼしているのか検証を行った.その結果,初回TMTは実施困難だったが,T-TMTは実施可能,1ヶ月後はTMT,T-TMT共に実施困難となった症例を考察した.【方法】当院入院中のパーキンソン病患者1名を対象にTMT,T-TMTを1回ずつ実施した.測定方法に関して,教示方法はTMTに準じて行った.TMTは既存の評価用紙を使用し,T-TMTはSurface bookを使用した.T-TMTのサイズ,レイアウトはTMTを模したものとし,指で画面をなぞり,描線を行った. 練習(1~5),本番(1~25)の順で行い,エラー数,所要時間を計測した.高次脳機能の評価はCATを用いて評価した.身体機能の評価はJapan Coma Scale(以下:JCS),握力,ピンチ力,Berg Balance Scale(以下:BBS)を用いて評価した.運動失調の重症度はICARSを用いて評価した.認知機能はMini Mental State Examination(以下MMSE)を用いて評価した.TMT,T-TMT共に机上で実施した.実施順は無作為とし,検査間は1週間以上あけ,初回と1ヶ月に計測を行った.TMTと同様にT-TMTも300秒以上経過した場合は中止とした.【結果】初回TMTは300秒を超えたが,T-TMTは234.7秒で実施可能だった.1ヶ月後はTMT,T-TMT共に300秒を超えた.高次脳機能面は,MMSEにおいて,初回18点から1ヶ月後14点と低下を認めた.CAT(順唱)は,初回5点から1ヶ月後5点,CAT(逆唱)は,初回3点から1ヶ月後3点と変化が無かった.身体機能面では,ICARS(右)において,初回3点から1ヶ月後7点,ICARS(左)初回7点から1ヶ月後に8点と低下しており,特に右上肢に失調の増悪を認めた.JCSでは,初回と1ヶ月後とも0と変化は無かった.握力(右)は,初回9.8kgから1ヶ月後12.3kg,ピンチ力(右)は,初回3.6kg,1ヶ月後は4.0kgだった.BBSは,初回4点から1ヶ月後4点と変化が無かった.以上の結果より,初回に比べ,1ヶ月後では描線能力,認知機能の低下を認める結果となった.【考察】今回,描線能力,高次脳機能面の評価を増やし,TMT,T-TMTの所要時間の検証を行った結果,パーキンソン病の症状悪化による描線能力の低下,認知機能の低下がT-TMTの所要時間に影響を及ぼしていると考えられる.今回の結果から,T-TMTは,描線能力が低下した症例に対して実施可能であり,注意機能を評価できたことから,有用であると思われる.今後,症例数を増やし,高次脳機能が検査結果に反映するか,TMTが行えず早期から経過を追えない方に導入可能か検証できればと考える.なお,この研究は当院倫理審査委員会の承認を得た.