[OK-3-1] 口述発表:認知障害(高次脳機能障害を含む) 3高次脳機能障害者の回復過程で生じる心理プロセス
修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)による分析
【はじめに】 我々は, 2021年に回復期での高次脳機能障害者に対する作業療法支援の特徴と変遷について文献レビューを行った結果, 近年ではより個々のニーズに基づいた支援が増加していることが明らかとなった. 一方で, 回復期のリハビリは数カ月に及び, 患者・家族の期待と実際の機能回復・ADL能力に相違があることや将来の生活を考えて心理的に不安定になると言われている(鈴木, 2010). また特に高次脳機能障害は多様な症状を示すため, 包括的に捉えにくいとの指摘もあり(山田, 2011), 回復期支援が難渋することも少なくない. これらより, より質の高い高次脳機能障害者に対する回復期支援を実現するためには, 当事者が回復過程で生じる心理プロセスを理解した上で, 支援方法を模索する必要があると考えた.
【目的】 本研究の目的は, 高次脳機能障害者の回復過程で生じる心理プロセスを明らかにすることである. またそれにより, 高次脳機能障害者への関わりの一助となり, 当事者目線の支援に近づけると考える.
【方法】 本研究は, 当事者の主観的側面を明らかにする質的研究である. 分析は, 臨床的ヒューマンサービス領域に軸をおき, 理論の実践的活用を目的とする修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下, M-GTA)にて行った. 分析の手順としては, M-GTAに基づき, まずインタビューデータを熟読した上で, 「高次脳機能障害者の回復過程で生じる心理プロセス」という分析テーマに関連した箇所に着目し, それを具体例として抽出した. 抽出された具体例について研究対象者の行為や認識に照らして解釈を行い定義し, 説明できる概念を生成した. その後, 生成された複数の概念の関係から成るカテゴリーを生成した. 分析の際, 厳密さを担保するため分析結果を研究者間で共有し, 合意が得られるまで修正を行った. 尚, インタビュアーは, 研究の全体像, 面接に要する時間, 質問の内容など研究内容を研究参加者に十分に説明し, 参加の任意性と情報の守秘を保証した後に, 口頭と同意書により承諾を得た.
【結果】 参加者は, 7名(男性4名, 女性3名)となり, 平均年齢は54. 1±4. 2歳であった. 参加者の語りから分析テーマに関連した28概念が得られた. そこから8カテゴリーが分類され, 内容は, 「不安先行期」「リハビリ担当者との二人三脚」「病気へのきづきと落胆」「コミュニケーションでの救済」「不自由な生活からの脱出」「気分転換と環境調整」「リハビリ成果の実感」「これからの生活へのアンビバレントな感情」であった.
【考察】 林(2015)は, 高次脳機能障害者にナラティブインタビューを行った結果, 高次脳機能障害者は障害を受容も拒否もしないまま, 「今, この時」を生きる覚悟をもって生きる存在であることを示している. 本研究の語りからも時間経過に沿って, 行きつ戻りつのプロセスが示されていた. 入院初期は「不安先行期」から始まり, リハビリ開始による,「病気へのきづきと落胆」また, 入院生活の長期化による「不自由な生活からの脱出」が語られた. それに対し, リハビリ開始時には, 「リハビリ担当者との二人三脚」が, 入院生活の長期化に対して, 「コミュニケーションでの救済」と「気分転換と環境調整」が不安の軽減に作用していた. また, 退院間近には, 「リハビリ成果の実感」を持ち入院初期の不安は緩和されるが, 一方で, 「これからの生活へのアンビバレントな感情」として, 退院への安堵とともに, 退院後の生活に向け新たな不安は生まれており, 長期的な支援の必要性が示された. 本研究の結果は, 高次脳機能障害者が回復期にたどる心理過程に対して, 支援者が適切な態度をとれる一助になると考える.
【目的】 本研究の目的は, 高次脳機能障害者の回復過程で生じる心理プロセスを明らかにすることである. またそれにより, 高次脳機能障害者への関わりの一助となり, 当事者目線の支援に近づけると考える.
【方法】 本研究は, 当事者の主観的側面を明らかにする質的研究である. 分析は, 臨床的ヒューマンサービス領域に軸をおき, 理論の実践的活用を目的とする修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下, M-GTA)にて行った. 分析の手順としては, M-GTAに基づき, まずインタビューデータを熟読した上で, 「高次脳機能障害者の回復過程で生じる心理プロセス」という分析テーマに関連した箇所に着目し, それを具体例として抽出した. 抽出された具体例について研究対象者の行為や認識に照らして解釈を行い定義し, 説明できる概念を生成した. その後, 生成された複数の概念の関係から成るカテゴリーを生成した. 分析の際, 厳密さを担保するため分析結果を研究者間で共有し, 合意が得られるまで修正を行った. 尚, インタビュアーは, 研究の全体像, 面接に要する時間, 質問の内容など研究内容を研究参加者に十分に説明し, 参加の任意性と情報の守秘を保証した後に, 口頭と同意書により承諾を得た.
【結果】 参加者は, 7名(男性4名, 女性3名)となり, 平均年齢は54. 1±4. 2歳であった. 参加者の語りから分析テーマに関連した28概念が得られた. そこから8カテゴリーが分類され, 内容は, 「不安先行期」「リハビリ担当者との二人三脚」「病気へのきづきと落胆」「コミュニケーションでの救済」「不自由な生活からの脱出」「気分転換と環境調整」「リハビリ成果の実感」「これからの生活へのアンビバレントな感情」であった.
【考察】 林(2015)は, 高次脳機能障害者にナラティブインタビューを行った結果, 高次脳機能障害者は障害を受容も拒否もしないまま, 「今, この時」を生きる覚悟をもって生きる存在であることを示している. 本研究の語りからも時間経過に沿って, 行きつ戻りつのプロセスが示されていた. 入院初期は「不安先行期」から始まり, リハビリ開始による,「病気へのきづきと落胆」また, 入院生活の長期化による「不自由な生活からの脱出」が語られた. それに対し, リハビリ開始時には, 「リハビリ担当者との二人三脚」が, 入院生活の長期化に対して, 「コミュニケーションでの救済」と「気分転換と環境調整」が不安の軽減に作用していた. また, 退院間近には, 「リハビリ成果の実感」を持ち入院初期の不安は緩和されるが, 一方で, 「これからの生活へのアンビバレントな感情」として, 退院への安堵とともに, 退院後の生活に向け新たな不安は生まれており, 長期的な支援の必要性が示された. 本研究の結果は, 高次脳機能障害者が回復期にたどる心理過程に対して, 支援者が適切な態度をとれる一助になると考える.