第56回日本作業療法学会

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一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-3] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む) 3

Sat. Sep 17, 2022 11:20 AM - 12:20 PM 第4会場 (RoomA)

座長:浅野 朝秋(秋田大学大学院)

[OK-3-2] 口述発表:認知障害(高次脳機能障害を含む) 3高次脳機能障害を呈した症例の復職に対する認識の変化

A case report

西埜 和希1三上 泉1椎 孝文1渡邊 正知1清水 大輔2 (1大阪府立障がい者自立センター自立支援課,2兵庫医療大学リハビリテーション学部)

【はじめに】後天性脳損傷後の就労には自己及び他者理解が重要とされている(稲葉,2018).脳梗塞後に高次脳機能障害を呈した本例は早期復職を希望していたが,支援者は訓練継続が必要とし, 認識に差を認めた.多職種が協働し復職に向けた課題を段階的に支援した結果,支援継続の必要性を理解し就労支援への円滑な移行に繋がったため経過を報告する.尚,本報告に際し本人の同意を得ている.
【症例】40歳代,右利き男性.X年Y月に大動脈解離を発症後,右頭頂葉及び両側前頭葉に脳梗塞を認め,Y+3ヵ月に自立訓練を提供する当施設へ入所した.Y+7ヵ月に施設及び自宅生活が安定し,復職を目標に支援を開始した.神経学的所見は運動麻痺はなく左下肢に中等度の感覚麻痺を認めたが,移動はフリーハンド歩行で自立していた.神経心理学的所見はWAIS-Ⅲ:言語性IQ113/動作性IQ58/全IQ86,BIT行動性無視検査の通常検査135/146(以下,BIT),慶應版WCST第一段階CA2/PEN4/DMS1,第二段階CA4/PEN4/DMS1で,注意障害,左半側空間無視,遂行機能障害を認めた.職務内容は重機を操縦し,鉄鋼製品の運搬・管理業務に従事していた.施設利用時は休職中で,休業補償を受給していた.職場と復職に向けた話し合いは行われていなかったが,「すぐ戻ろうと思ってます」と早期復職を希望していた.発言には復職できないかもしれない不安と,経済的な不安を含んでいた.支援前の担当者会議では,本例の就労準備性(渡邉,2013)及び職場の理解や受け入れ体制が整っていないこと,環境の変化で不安や焦りが強まる傾向から訓練継続の必要性を共有した.
【支援経過】就労支援の継続に向けた多職種支援を3期に分けて報告する.1期(Y+7〜9ヵ月)は,作業療法士が模擬的な就労課題を実施し,職務内容と結果を照合しながら高次脳機能障害が就労にどう影響するかを理解してもらうように支援した.理解が深まる中で「職場に障害を説明してほしい」と発言に変化を認めたが,復職への不安も強まり公認心理師による心理的支援の頻度を増やした.2期(Y+10〜13ヵ月)は,職場の理解と受け入れ体制の整備に向けて,職場と本人,妻を交えた会議を行った.初回は高次脳機能障害を説明し,二度目は職場の現場視察を通して配置転換と復帰時期を検討した.原職復帰の困難さを体感したこと,休職期間の延長と傷病手当金の受給が決定したことで経済的な不安も解消し,配置転換および退所後の訓練継続に合意した.また,本例が支援を選択できるようにケアワーカーが復職事例や就労サービスについて情報提供した.3期(Y+14〜15ヵ月)は,次の支援機関への引継ぎを本格化した.2日間リハビリ出勤を実施し,結果を踏まえて就労移行支援事業所の利用が決定した.ケースワーカーが事業所見学の同行や障害者就業・生活支援センターとの面談を調整し,支援経過を情報提供書にまとめシームレスに引き継いだ.
【結果】Y+15ヵ月時の検査結果は,BIT 135/146,慶應版WCST第一段階CA6/PEN1/DMS0で遂行機能に改善を認め,高次脳機能障害が就労に影響することを自ら説明できるようになった.復職までの見通しが立ったことで不安は軽減し,「就労移行に通って一年後に復職したいと思います」と認識に変化を認めた.
【考察】本例は,高次脳機能障害に加えて,心理的な不安定さや支援体制の未整備など,複合的な課題を抱えており,多職種支援が必要であった.就労支援への理解度と心理的変化を共有しつつ,課題を段階的に支援できたことは,復職に対する認識の差を減らし,サービス利用の意思決定や就労支援への円滑な移行を実現できたと考えられた.