第56回日本作業療法学会

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一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-3] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む) 3

Sat. Sep 17, 2022 11:20 AM - 12:20 PM 第4会場 (RoomA)

座長:浅野 朝秋(秋田大学大学院)

[OK-3-3] 口述発表:認知障害(高次脳機能障害を含む) 3食事拒否のある高齢認知症利用者にタクティールケアを用いた食事摂取量の変化について

ABAシングルケースデザインによる検討

小黒 修1 (1医療法人 尚生会 アネックス湊川ホスピタルデイケア)

【はじめに】認知症の行動心理症状(BPSD)によりADLにも影響を及ぼす場合がある.認知症疾患では食行動習慣に様々な変化が生じ,摂食行為に問題が生じるようになると報告している(繁信和恵:2017).当院の重度認知症デイケアでも注意力低下や食事拒否は食事摂取の妨げになることがある.先行研究では感覚入力であるタクティールケアは認知症の方に対し,BPSD軽減の報告がある(松本明美:2011).しかし,認知症高齢者における食事拒否に対するタクティールケアを検証した研究は見当たらないのが現状である.
【目的】本研究の目的は食事を拒否する認知症高齢者を対象にタクティールケア実施後の食事摂取量に着目し,一事例を通して効果があるかを検討する.
【症例紹介】A氏,70代後半女性,夫と二人暮らしである.前頭側頭型認知症,不安が強く各動作毎に訴えがある.デイケアの座席に座ってもしばらくすると立ち歩く場面が多く,食事の拒否がある.X年頃より記憶力が低下し,疎通が難しくなった.ショートステイ等を利用するも徘徊や疎通困難の為,利用が難しくなっている.
【方法】研究デザインには第1非介入期(A1),第1介入期(B1),第2非介入期(A2)によるABAデザインを用いた.介入期間は各5日間,A・B期共に土日祝日を除いた各計15日間とした.非介入期では体操や口腔体操など通常のプログラムの後,食事摂取量を測定した.介入期では昼食の15分前にタクティールケアを両手に実施し,その後食事摂取量を計測した.タクティールケア導入前にA氏にマッサージをすることを説明し,拒否があった場合は実施しないこととした.実施時間は右手5分,左手5分の合計10分間行い,オイルは無香料のベビーオイルを用いた.食事摂取量の計算は食事前と食事後にデジタルクッキングスケールにて計測し,食事前の重さから食事後の重さを引いた量を食事量とした.食事量の変化はグラフ化し,目視法により効果を判定した.介入前後の測定指標は,認知症行動障害尺度(以下,DBD),臨床的認知症尺度(以下,CDR),Zarit介護負担尺度日本語版(以下,J-ZBI_8)で比較した.なお,対象者にはヘルシンキ宣言に基づき対象者及び家族に説明し同意を得た.
【結果】前半ベースライン期の前後では30g,90gと食事量の変化はみられなかった.介入期では前半で食事量が90gから242gになり水準の変化がみられた.勾配は後半介入期が最大で,ベースライン期よりも後半介入期の勾配が大きかった.DBDは介入前45点,介入後36点であり,有意な効果を認めた.一方でCDRは介入前17点,介入後17点.J-ZBI_8は介入前7点,介入後6点と変化がみられなかった.食事について介入後は拒否なく食事介助を受け入れることができ,食事量の増加が見られた.
【考察】評価結果からベースライン期に比べ介入期の改善が大きかったことからタクティールケアの効果が考えられた.タクティールケアの実施は認知症高齢者の食事摂取量増加に効果があると考えられる.A氏は認知機能の低下が著名であり,食事場面でも理解力低下や疎通困難な状態は精神的な混乱や不安を導いていたと考える.小泉らは皮膚への柔らかな刺激は安心と信頼の感情が引き起こし,リラックスや不安感や恐怖感を緩和することができると述べている(小泉由美:2012).本症例でもタクティールケアによる感覚刺激やスキンシップは快刺激に繋がり,不安軽減に関与したと考える.これまで認知症の方へのタクティールケア後のBPSD軽減に関しては報告がなされているが,今回は,ABAデザインによりタクティールケア実施後に食事量増加に効果的であることを示した.今後,さらに多くの症例で実施する価値があるものと考える.