第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

援助機器

[OL-1] 一般演題:援助機器 1

2022年9月17日(土) 12:30 〜 13:30 第5会場 (RoomB)

座長:上島 健(大阪河崎リハビリテーション大学)

[OL-1-2] 口述発表:援助機器 1肩関節痛がある排痰が必要な脊髄損傷患者に対する体位ドレナージのための体位交換の工夫

浦瀬 康太1樋野 正典2井上 由紀美3薬師寺 伽歩1河野 佑亮1 (1市立宇和島病院リハビリテーション科,2市立宇和島病院整形外科,3市立宇和島病院看護部)

【はじめに】
下葉に痰があり,腹臥位での体位ドレナージが有効な症例がいた.しかし,肩関節痛により背臥位から腹臥位への体位交換を嫌がられた.移動式リフト(株式会社いうら EL-570;以下リフト)を使用し,体幹を持ち上げ,肩関節痛が生じない様にして背臥位から腹臥位へと体位変換をする方法を考案し,実施することで,肩関節痛がなく体位交換することができ,その結果を報告する.なお,今回の発表に関して症例に同意を得ている.
【症例】対象は70歳代男性で,X月Y日に交通事故で受傷.C5/6脱臼骨折,frankel分類gradeAの診断.同日脱臼整復固定し,挿管し人工呼吸器管理となった. Y+2日に気管切開,Y+3日にリハビリ開始となった.肺炎を合併し体位ドレナージを実施したが,肩関節痛もあり側臥位にまでしか体位交換しなかった.Y+13日には側臥位での体位ドレナージ・スクイージング・カフマシーンの使用を行うが,排痰できなかった.4人介助で腹臥位をとり,その姿勢での体位ドレナージで粘調な痰は排出され,直後は酸素5L でのSpO2が95%から100%まで上昇し,酸素減量し1LでもSpO2が95%を維持できた.
【評価】X+1月Y+7日には昼夜人工呼吸器は離脱し酸素はoffとなったが,痰は多く,排痰のケアの必要性は高い状態であった.腹臥位への体位交換は4人介助で上肢を体幹の下から通す時に肩関節の痛みは生じた.肩関節のROMは左右とも屈曲80度,伸展10度,外転60度,内転-15度.ニーズはしゃべれるようになることであり,気管カニューレを複管タイプにする必要があり,引き続き肺炎合併し痰が増えることを防ぐ必要があった.本人からは腹臥位は行った後は息が楽になるが,肩が痛くて体位ドレナージはしたくないと訴えがあった.
【介入】PTとの二人介助でおこなった.リフトのスリングシートと体の間で滑りやすくするためスライディングシートを挟んだ.肩関節痛の生じる原因である肩内転を避けるため,リフトのスリングシートを頭部の下には敷かずに腋窩から骨盤までの下に敷いた.腹臥位への体位変換の際にベッド側の上肢はスリングシートから出し,天井側の上肢はスライディングシート内に入れた.一人がリフトを操作し上半身を持ち上げ,頭部はもう一人が支え,上半身が持ち上がっていく際に頸部に負荷がかからない様にした.浮いた頭部に合わせてさらに枕を下に敷いていった.重ねた枕で頭部の保持ができたら,両膝関節を屈曲させ回転する側に膝を倒し,骨盤を傾けた.浮いた体幹の下から上腕を通し,二人で頸部が回旋しない様に腹臥位に姿勢を保持させた.20分程度その姿勢を保持することで毎回多く排痰ができた. 一人がいつでも吸引できる様に準備をし,もう一人がSpO2を監視し,肺音を聴取し痰の移動を確認して痰による窒息に配慮した.
【結果】本人からは肩の痛みはないと言ってもらえ,腹臥位をとることができた.介入から回復期転院までの期間は肺炎なく,複管式のスピーチカニューレを使用し続けることが可能であった.看護部でも側臥位の体位ドレナージをしてもらっていたが,腹臥位での体位ドレナージ後には粘調な痰が多く排出され,酸素offの状態でSpO2は91%から98%まで上昇する状態であった.
【考察】下葉に痰が溜まっている症例に対して腹臥位での体位ドレナージが有効なことは示されている.しかし,背臥位から腹臥位へ体位変換するために,介助者が多く必要な事や本症例のような肩関節痛がる症例には苦痛が生じることが問題となる.今回はリフトを使用することで,二人で施行することができ,肩関節内転を避けることで,肩関節痛のある患者の体位交換を痛みなく行うことができたと思われる.