第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

MTDLP

[OM-1] 一般演題:MTDLP 1/ 理論 1

2022年9月17日(土) 12:30 〜 13:30 第4会場 (RoomA)

座長:石川 隆志(秋田大学大学院)

[OM-1-5] 口述発表:MTDLP 1/ 理論 160代中途障害者が回復期リハビリテーション病棟退院に至るまでの価値ある作業の認識過程

~複線径路等至性アプローチによる分析~

星島 彩12谷村 厚子3 (1東京ほくと医療生活協同組合王子生協病院リハビリテーション課,2東京都立大学大学院人間健康科学研究科 作業療法科学域 博士前期課程,3東京都立大学大学院人間健康科学研究科 作業療法科学域)

【はじめに】回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期リハ病棟)において,作業療法士は対象者の心身機能の回復だけではなく,生活行為の改善に対するアプローチを行うことが期待されている.生活行為の改善には,作業に焦点を当てた実践を行うことが提言されており,先行研究では,作業に焦点を当てた実践において,価値や意味のある作業に取り組むことの重要性が示唆されている.一方で,回復期リハ病棟退院時に中途障害者がそれまでの価値ある作業をどのように認識しているのか,その過程について詳細に検討されていない.
【目的】回復期リハ病棟退院時の中途障害者の価値ある作業に対する認識の過程を明らかにし,作業療法士が作業に焦点を当てた実践を行うための手がかりを探索すること.
【方法】本研究では,インタビューにてデータ収集を行い,複線径路等至性アプローチ(Trajectory Equifinality Approach:以下,TEA)を用いて分析を行う質的研究を実施した.対象者は,価値ある作業について話すことができる自宅退院予定の回復期リハ病棟入院中の患者とし,インタビューは,退院日が決まってから2回実施した.加えて,インタビュー内容を照合するために,作業遂行歴面接第2版の作業同一性尺度の評価を実施した.データの分析は対象者ごとに,それぞれが経験した出来事・行動とそれに伴う思いを抽出し,類似した内容をまとめ抽象度を上げたラベルを作成した.作成したラベルは,時間軸に沿って並べ,矢印で繋ぎ,それぞれの径路が分かれていく分岐点と一旦収束する等至点等を記載し,統合したTEM図を作成した.また,信頼性を担保するためにメンバーチェッキング及び,共同研究者と分析を行った.なお,本研究は所属先の倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】対象者は,男性3名,女性1名の計4名であった.4名には,病前まで複数の価値ある作業に従事しており,退院時はセルフケア自立レベルに到達し,自宅退院した60代という共通点があった.TEAの分析からは,対象者は入院中に価値ある作業に触れることで自分らしくあろうとし,価値ある作業をどんな形でもしたいと思うようになり,「生きる糧となる価値ある作業」という信念が強化されていた.加えて,「価値ある作業をセラピストに話すことができる」という等至点と,「価値ある作業ができると確信を得る」というセカンド等至点が明らかとなった.一方で,1名のみは退院後の生活が想像できず,「価値ある作業を失う不安を抱く」という両極化した等至点に至っていた.
【考察】本研究から,対象者は価値ある作業の一部に触れることで,自身の役割を確認し,「自分らしくある」ことを見出していた.さらに,障害があっても価値ある作業ができるという情報を取り込むことによって,「どんな形でもしたいと思う」と価値ある作業の認識を変化させていた.また,対象者が「価値ある作業ができると確信を得る」ことへ至った過程には,家族の存在や他患者との共感によってリハのモチベーションを保つことや,価値ある作業の模擬的な訓練を行う経験が影響していたと考えられた.これらのことから,作業療法士は,早期から対象者の価値ある作業に対する支援を行い,環境や方法の工夫によって価値ある作業ができるという情報と,価値ある作業の実践的または模擬的な訓練の機会を提供することが,対象者の有効感を高める作業に焦点を当てた実践を可能にすると考える.