第56回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-1] 一般演題:地域 1

2022年9月16日(金) 14:30 〜 15:30 第4会場 (RoomA)

座長:田平 隆行(鹿児島大学)

[ON-1-2] 口述発表:地域 1ナラティブスロープにて経過を描き目標を見直した事例

竹内 元輝1伊藤 正敏2成川 峰子3山本 泰雄4 (1志摩地域医療福祉センター 医療技術部リハビリテーション室,2三重北医療センター菰野厚生病院リハビリテーション科,3伊勢慶友病院 リハビリテーション科,4鈴鹿医療科学大学リハビリテーション学科)

【はじめに】
近年,目標設定への関心は高まっている.しかし,支援者と対象者とが協働的に目標を決定したとしても,認識している目標が一致しないことが報告されており,目標の背景にある対象者の心境も丁寧に把握し,支援目標を設定する必要がある.そこで筆者らは,前回の本学会で,ナラティブスロープを用い,目標が達成したとしても生活上の出来事が良い事柄に至らなかった事例を報告した.今回は,その後,改めて目標を検討し支援の見直しを検討した結果,良い事柄に向け上昇したため考察を加えて報告する.なお,本症例に対し,発表の趣旨及び目的について説明し同意を得た.
【事例紹介】
80歳代女性,要支援2,独居,主介護者は次男の嫁.診断名はうつ病,自律神経失調症.40歳代から婦人会や民生委員,食生活改善推進委員に所属し,婦人会は会長まで務めた.家族の病気,死別をきっかけにうつ病,自律神経失調症となり,活動量の向上を目的に訪問作業療法が開始となる.
【方法】
ナラティブスロープ作成:面接にて,過去から現在に至る生活上の良い事柄,悪い事柄,各事柄に対象者がどのような想い,感情で向き合ったのかを聴取し前回作成した開始後6ヵ月経過までのナラティブスロープのグラフに加筆した.その上で,6ヵ月と9ヵ月時点での結果を比較した.なおナラティブスロープの横軸は時間経過,縦軸は高いほど人生の良い状態を示す.
【経過】
初期評価:FIM115点,FAI8点.興味関心チェックシートを用い,目標を散歩習慣化,調理・畑仕事再開,老人会参加と設定.作業療法プログラムは機能訓練,実生活場面でのIADL訓練を実施した.
再評価(6ヵ月後):FIM121点,FAI24点.当初の目標は達成.この時点でナラティブスロープを作成し,人生における状態の推移を確認した.目標は達成されたがナラティブスロープは低迷を示した.
支援再検討(6〜9ヵ月後):改めて目標の背景にある心境を洞察し支援を見直した.新たな目標として,散歩習慣化から畑の野菜を友人に配る,調理・畑仕事再開から食生活改善推進委員で用いたレシピ本を参考にした健康的な調理再開,老人会参加から老人会での名簿管理・お茶出しに見直し,レシピ本を用いた調理訓練,家族や関連職種・老人会担当者との目標共有・連絡調整を実施した.
【結果】
FIM121点,FAI27点.見直した新たな目標は達成され,6ヵ月時と比較し9ヵ月時のナラティブスロープの縦軸は良い事柄に向けて上昇を示した.また,6か月時点では活動の波及効果は得られなかったが,9か月時点では友人とグランドゴルフに出かけたり,お花つくりに取り組まれる様子が確認できた.心身機能面でも6か月時点では変化はないとのことであったが,9か月時点では「体力がついた気がする」「気分が良い日が増えた」と発言が得られた.
【考察】
6ヵ月の時点では目標は達成したものの,ナラティブスロープは開始時と変化なく低迷を示した.これは対象者の心境を支援者が十分に把握できず,目標の解釈に齟齬が生じていた可能性があると考え,目標の背景にある心境を洞察し支援を見直した.9ヵ月後には,心身機能向上及び活動の波及効果が得られ,ナラティブスロープの縦軸は上昇を示した.ナララティブスロープを用い,目標の背景にある心境を丁寧に捉え,支援者と対象者との間にある齟齬を減らすことができたことが人生の良い事柄に向けて作用したと考えられる.