第56回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-3] 一般演題:地域 3

Sat. Sep 17, 2022 10:10 AM - 11:10 AM 第3会場 (Annex2)

座長:由利 禄巳(森ノ宮医療大学)

[ON-3-5] 口述発表:地域 3交流の場を作る「当事者移動カフェ事業」の報告

~当事者発信が未来を拓く希望~

石山 満夫1上田 淳子2石山 由弘子3 (1千里津雲台訪問看護ステーション,2つばき内科クリニック,3喫茶 ほっとや)

【はじめに】認知症カフェがコロナ禍で再開に踏み切れず,吹田市認知症カフェ交流会では,大阪府福祉基金の助成を受け,当事者がマスターとなり移動する「当事者移動カフェ事業」を実施した.交流の場を作ることの意義について考察する.【倫理的配慮】事業運営スタッフ,当事者に説明を行った上,同意を得た.
【目的】当事者移動カフェ事業(事業)を紹介し交流の場を作る意義を明らかにする.
【対象】2021年6月から12月まで開催した1回60分12回の事業を調査.
【方法】事業を振り返り当事者にヒアリングを実施.調査内容は①目的,②運営体制,③当事者概要,④開催地と窓口,⑤交流場面,⑥当事者のやりがい,⑦事業収支,⑧開催地の要望,⑨参加学生の声,⑩運営の問題点とした.
【結果】①目的:開催が困難なカフェの運営者,利用者,ボランティアが交流できるカフェ空間を作る当事者や高齢者が活躍できる場面を作り周囲に示す.開催地の福祉ニーズを掘り起こす啓発チラシを作る.②運営体制:当事者2名(A氏,B氏),ボランティアは当事者配偶者,栄養士,調理師,OT,医学生の5~6名.③当事者概要:A氏70代男性,MCI疑,7回参加.B氏,60代男性若年性AD,7回参加.④開催地と窓口:高齢者入居施設,通所施設,診療所,住宅街町内会,福祉用具貸与事業所,商店街,市役所駐車場,市交流センター,市内,市外共に5カ所で6回開催.平均24名参加.窓口は当市では会員が,他市では当事者の会代表者,府認知症介護指導者,認知症地域支援推進員,市職員(OT含)であり,窓口が利用者,市民,関係職に声かけをした.⑤交流場面 :感染対策上,主に駐車場や屋上にて開催.助成金で購入した机,パラソル,コンロ,幟等一式を設置後,コーヒーを販売.各移動先ではコロナ禍のため久々の対面交流で,開店後すぐ盛り上がる. A氏は当初,コーヒーを作りに徹したが回を重ねるうちウェイターとなり,早期診断がなされても何も支援がない「空白の期間」など体験談を自発的に語るようになる.場面の特徴には4パターンみられる.「入居者が外部の人と交流し楽しむ場面」「町内会のつながりが復活する場面」「当事者と関係職が出会いを喜ぶ場面」「企業,商店街の人に啓発する意義を感じる場面」.⑥当事者のやりがい:ヒアリングではA氏「開催地の事業についての理解差があり周知活動が必要」「患者体験談として初期の人の困りごとを話せる場を作りたい」B氏「みんなが楽しんでもらえて何より良かった」.⑦事業収支:全276人の利用客.1杯50円で販売.材料費約1万円の予算内で収まる.⑧開催地の要望:S市介護の日オンラインイベントに事業の動画配信,市内クリニックでカフェの開催継続,M市からA氏に講師依頼.I市からオンライン合同カフェの提案.T市町内会で「これなら自分達でも再開したい」.⑨参加学生の声: 医学生からは「何かできることがあればやりたい気持ちを持つ認知症の方々が多くいることを実感」「社会全体として認知症をマイナスとしてとらえ過ぎている」「社会とのつながりで孤立を防ぐことや認知症状は改善可能だと言うことを積極的に発信していく必要がある」.⑩運営の問題点:開催地スタッフに事前に入念な事業説明を怠らない.活動に参加できる当事者の充実.
【考察】移動カフェが生む交流は4点の意味があった.なかでもA氏がウェイターとなり自発的に体験談を語り他市の講演依頼があったことは,当事者が未来を切り拓くという希望を感じる.移動先にもあると思われる同じニーズを当事者とともに掘り起こし,同じ悩みを持つ人の横のつながりが持てる地域になるよう,「発信支援の場」にかじ取りを移したい.