第56回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-5] 一般演題:地域 5

Sat. Sep 17, 2022 12:30 PM - 1:40 PM 第3会場 (Annex2)

座長:中島そのみ(札幌医科大学)

[ON-5-1] 口述発表:地域 5他職種連携により保育園へ入園し言語表出の向上が見られた一例

廣澤 健太1松本 渉1鳥内 亮平1多江 和晃1 (1LE在宅・施設 訪問看護リハビリステーション)

【はじめに】
自閉症スペクトラム障害とは社会的コミュニケーションや興味の限局,常同的,反動的行動等を主徴とし乳幼児期に発現する障害である.近年発達障害領域の小児は増加傾向で作業療法士による介入も増加しているが,その多くが病院や障害施設でのリハビリで訪問看護領域での報告は少ない.今回の幼児の利用者に対し,訪問リハビリの介入,支援相談員と他職種連携をとり,目標の保育園への入園,言語表出の向上が見られたため報告する.なお本報告について母親に同意を得た.
【症例紹介】
3歳11か月男児.自閉症スペクトラム障害(以下,ASD).身体機能異常なし.KIDSタイプT(理解言語11か月,表出言語8ヶ月).リハビリの様子として5分~10分以上同一の机上課題継続が困難であり注意散漫さが見られ,セラピストが課題を促すと癇癪が見られた.言語表出も1語~2語で「先生」,「こんにちは」,「ブーン」等の擬音語や擬態語が多く,言葉の明瞭度低く聞き取りづらい.母親は既往歴に鬱病あり.こちら側が提案に対し協力的だが,受動的で会話も少なく子供の対応に困っている様子.前年度に「椅子に座って名前が言えない」事が理由で幼稚園の入園試験に落選したものの,幼稚園入園を目標としている.
【治療介入】
期間はX年5月から11月までの31週の期間で介入頻度は週1回.リハビリ内容は塗り絵やちぎり絵,粘土遊び等の感覚統合とごっこ遊びや本読みを実施.環境調整として机の上に玩具が散乱し,外的刺激を受けやすい環境下だった為玩具は机の上に1個以上置かない,視界に入る玩具にはタオルをかける等行い,複数の課題から課題を選んでもらい自己決定権を促した.介入当初は本人の拒否も強く,母親も日々の生活に疲弊しているように見えた.日々の生活について母親へコミュニケーションを図ったが,リハビリの際に母親は別室で過ごされている事や鬱病の既往の事を考えると情報収集が困難な状況だった.以上の事を支援相談員に相談,連携し一緒に訪問を行った.リハビリ中に支援相談員は別室で母親と現在の悩みや今後の目標を聴取し,その後情報共有をした.結果,母親から「次の幼稚園に落ちたらどうしよう」,「今の育て方であっているか不安」等の訴えが聞かれた.相談員から生活技能の獲得の為に保育園の入園を提案.母親からも同年代の子達と交流をさせたいとの希望も見られた為,目標設定を幼稚園入園から保育園入園に変更し,X年9月から保育園へ入園となる.
【結果】
KIDSタイプT(理解言語1歳2か月,表出言語10か月)まで改善.机上課題も10~15分可能となり,継続時間も増加.擬音語や擬態語だけでなく「先生また遊ぼうね」,「今粘土やってるの」等,2語~3語の言語表出が見られ,明瞭度も改善.出来た作品を母親に見せる場面が見られ,母親から「成長が著しい」と発言あり.母親も笑顔で本症例と会話する場面がみられるようになった.
【考察】
本症例の表出が向上した理由として保育園に入園し同年代の子供たちとのコミュニケーション頻度の増加が考えられる.西村は言葉を喋るには3つの条件があると述べており,(1)正常な機能をそなえた中枢神経が(2)適切な環境からの刺激にさらされて(3)臨界期のうちになされる.また辻は適切な環境とは,乳児が周りにいる大人たちの庇護のもとに置かれ,言語的,社会的な経験を得ることのできる場を指すと述べている.
本症例はコミュニケーション頻度増加を目的に支援相談員と協力し環境設定として保育園の入園を促し,言語表出が向上した.ASD小児にとって外部環境は重要であること,また在宅領域分野において支援相談員等との他職種連携の重要性が示唆された.