[OP-1-1] 口述発表:基礎研究 1Brain-Computer Interface応用に向けた筋萎縮性側索硬化症患者における脳賦活反応の推定
【はじめに】Brain-Computer Interface(BCI)とは, 脳の生体信号を用いて外部機器を制御する技術である. BCIを医療応用することによって, 筋萎縮性側索硬化症(ALS)に代表される重度運動機能障害を有する対象者の新たな生活支援手段を確立できる可能性がある. そこで本研究は, ALS患者を対象として近赤外線分光法による生体信号を計測し, 機械学習手法を用いて脳血行動態変化に基づく脳賦活推定を試み, シミュレーションによりBCIの性能評価を実施した. 本研究は, 所属機関の生命倫理審査委員会の承認および対象者の同意を得て実施した.
【方法】60代男性のALS患者1名が実験に参加した. 球型の孤発性ALSと診断され, ALS重症度分類は重症度5である. 四肢の随意運動は困難であるが, 残存する眼球運動を用いた声掛けに対する応答あるいは視線入力装置miyasuku EyeConSW(株式会社ユニコーン社製)による文字入力で意思確認および実験参加に必要な認知機能が保たれていることを事前に確認した. 生体信号計測には, ポータブルNIRS測定器OEG-SpO2(Spectratech社製)を用いた. 国際10–20法に基づきヘッドセット中央部が前頭極直上に一致するように装着し, 射光部・受光部間距離3㎝, サンプリング間隔0.081秒にて, 16チャネル計測を実施した. 実験には, 安静30秒とタスク30秒を1試行とし, 3試行で構成されるブロックデザインを採用し, 4日間で全36試行の脳機能計測を実施した. タスクには連続加算暗算課題と音楽想起課題の2種類を用い, タスクの実施順序はランダム化した. 実験は対象者の居室にてベッド上背臥床位で実施し, 安静とタスクの切り替えのタイミングはタッピングにて提示した. データ解析は, 前処理としてタスク前の安静5秒を基準に標準化した後に, 皮膚血流成分およびNIRS固有の遅延を考慮しタスク初期7秒を除去した. 前処理後データおよびその微分値に対して, 4秒の時間窓を0.6秒のステップ幅でセグメンテーションすることで基本統計量による特徴量を抽出し,サンプル数1368・次元数288の教師データ付きデータセットを構築した. 特徴選択には二項分布を用いた検定に基づく変数選択手法であるBorutaを適用し, 機械学習にはアンサンブル学習手法であるRandom forestを用いた.17試行分のサブデータセットを使用して分類モデルを学習し, 構築したモデルに1試行分ずつサブデータセットを入力し, 出力の正答率を算出する18分割交差検証によりBCI性能を評価した. 統計解析および機械学習は, python3.7.4とpythonの各種機械学習ライブラリを使用して実施した.
【結果】連続加算暗算課題および音楽想起課題のクラス正答率は, 全特徴量を用いたモデルではそれぞれ0.84±0.23と0.71±0.39, 特徴選択を用いたモデルではそれぞれ0.84±0.24と0.68±0.38であった. Borutaで除外された特徴量数は平均53種であり, 尖度, 歪度に関連する特徴が大半を占めた.
【考察】生体信号から2種の認知課題による脳賦活反応を推定可能であった. 本知見を応用しBCIを構築することで, 脳賦活反応によるYES/NOといった2値の意思伝達が実現できる可能性が示唆された.作業療法分野において閉じ込め状態の対象者のコミュニケーション手段の確保は解決すべき重要課題であり, 本知見は神経難病リハビリテーションの新たな選択肢として貢献する可能性がある. 今後は,生体信号の信頼性ならびに信号計測に適した認知課題の種類や実施方法を調査し, 実用性の向上を図る.
【方法】60代男性のALS患者1名が実験に参加した. 球型の孤発性ALSと診断され, ALS重症度分類は重症度5である. 四肢の随意運動は困難であるが, 残存する眼球運動を用いた声掛けに対する応答あるいは視線入力装置miyasuku EyeConSW(株式会社ユニコーン社製)による文字入力で意思確認および実験参加に必要な認知機能が保たれていることを事前に確認した. 生体信号計測には, ポータブルNIRS測定器OEG-SpO2(Spectratech社製)を用いた. 国際10–20法に基づきヘッドセット中央部が前頭極直上に一致するように装着し, 射光部・受光部間距離3㎝, サンプリング間隔0.081秒にて, 16チャネル計測を実施した. 実験には, 安静30秒とタスク30秒を1試行とし, 3試行で構成されるブロックデザインを採用し, 4日間で全36試行の脳機能計測を実施した. タスクには連続加算暗算課題と音楽想起課題の2種類を用い, タスクの実施順序はランダム化した. 実験は対象者の居室にてベッド上背臥床位で実施し, 安静とタスクの切り替えのタイミングはタッピングにて提示した. データ解析は, 前処理としてタスク前の安静5秒を基準に標準化した後に, 皮膚血流成分およびNIRS固有の遅延を考慮しタスク初期7秒を除去した. 前処理後データおよびその微分値に対して, 4秒の時間窓を0.6秒のステップ幅でセグメンテーションすることで基本統計量による特徴量を抽出し,サンプル数1368・次元数288の教師データ付きデータセットを構築した. 特徴選択には二項分布を用いた検定に基づく変数選択手法であるBorutaを適用し, 機械学習にはアンサンブル学習手法であるRandom forestを用いた.17試行分のサブデータセットを使用して分類モデルを学習し, 構築したモデルに1試行分ずつサブデータセットを入力し, 出力の正答率を算出する18分割交差検証によりBCI性能を評価した. 統計解析および機械学習は, python3.7.4とpythonの各種機械学習ライブラリを使用して実施した.
【結果】連続加算暗算課題および音楽想起課題のクラス正答率は, 全特徴量を用いたモデルではそれぞれ0.84±0.23と0.71±0.39, 特徴選択を用いたモデルではそれぞれ0.84±0.24と0.68±0.38であった. Borutaで除外された特徴量数は平均53種であり, 尖度, 歪度に関連する特徴が大半を占めた.
【考察】生体信号から2種の認知課題による脳賦活反応を推定可能であった. 本知見を応用しBCIを構築することで, 脳賦活反応によるYES/NOといった2値の意思伝達が実現できる可能性が示唆された.作業療法分野において閉じ込め状態の対象者のコミュニケーション手段の確保は解決すべき重要課題であり, 本知見は神経難病リハビリテーションの新たな選択肢として貢献する可能性がある. 今後は,生体信号の信頼性ならびに信号計測に適した認知課題の種類や実施方法を調査し, 実用性の向上を図る.