第56回日本作業療法学会

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一般演題

基礎研究

[OP-1] 一般演題:基礎研究 1

Fri. Sep 16, 2022 12:10 PM - 1:10 PM 第5会場 (RoomB)

座長:中村 充雄(札幌医科大学)

[OP-1-4] 口述発表:基礎研究 1嗅覚刺激は幼児のバランス能力を向上の一助となる

稲富 惇一12箭野 豊12安岡 希和1片岡 聡子1山口 正洋3 (1土佐リハビリテーションカレッジ作業療法学科,2高知大学大学院 総合人間自然科学研究科医学専攻 博士課程,3高知大学医学部 統合生理学講座)

【序論】
 近年,食物関連の嗅覚刺激は運動反応の改善を示すといった報告が増えている.未熟児で生まれた乳児は母乳やバニラの嗅覚刺激を与えた後に吸啜反応の改善が見られ(Davidson et al.,2019),成人においては醤油の嗅覚刺激後に上肢の前方リーチが改善されている(Yano et al.,2019).このように嗅覚刺激は運動反応を向上させるため,作業療法士が調理訓練や食事場面へ介入する意義を高めている.しかし,幼児を対象とした研究は国内外で報告されておらず,その効果は定かでない.そこで今回,幼児に対してバニラ・醤油・水(無臭:コントロール群)の匂いを嗅いでもらい,バランス能力を向上させるか検証した.結果,バニラ・醤油の匂いにおいて一定の効果が得られたため以下に報告する.なお,本事業は倫理委員会の承認を得た上で実施され(承認番号:TRC20219),発表に関するデータの活用においては参加児の保護者に同意を得ている.
【目的】
 幼児におけるバニラ・醤油の嗅覚刺激はバランス反応を向上させるか明らかにする.
【方法】
 対象はA園・B園に通っており,保護者の同意を得られた3~6歳の園児67名(5.1±0.9歳,男児30名,女児37名)であった.その後群分けをシミュレーション法にて男女比に偏りが出ないよう,無作為に3群(バニラ群:22名,醤油群:23名,水群:22名)に分けた.3群間の年齢・身長・体重に有意差は無かった.期間と時間帯は1人1回昼食一時間前に実施し,効果判定の主要評価はFunctionalReach Test(FRT)を用いた.介入は事前評価としてFRTを行い,次に参加者1名に対し嗅覚刺激を20秒与え何の匂いか尋ねた.その後10秒の静止時間を置き,事後評価としてFRTを再計測し終了とした.測定値の除外基準は,FRT時に常時指示が必要・徒手的介助を要する・静止立位が保持できない,を設けた.分析は,各群の嗅覚刺激前後のFRTを二元配置分散分析(対応あり)し,多重比較検定としてBonferroniを用いた.統計学的有意水準は5%とした.
【結果】
 除外児は,バニラ群5名,醤油群4名,水群2名であった.分析の結果,3群のFRT値に交互作用を認めた(F:21.47, P<0.01),前後比較ではバニラ・醤油ともに嗅覚刺激前と比べ有意(P<0.01)に変化した.また,研究に参加した全ての幼児がバニラか醤油の匂いと当てることができており,「クッキーやアイスの匂い(バニラ)」「お刺身やお寿司に使う(醤油)」と表現している場合もあった.
【考察】
バニラと醤油の匂いは幼児のバランス反応を即時的に向上させた.この結果から,乳児や成人に行った先行研究と同様に,幼児においても嗅覚刺激を与えることによって運動に一定の効果をもたらすことが示唆された.匂いの情報を処理する嗅結節は行動意欲を促進するドーパミンの入力を豊富に受けており,食行動などの誘引行動を引き起こす(山口,2021).今回の研究時間は昼食前であったことから,嗅覚刺激がより誘引行動を引き起こす反応を示し,バランス反応に影響を及ぼしたと考える.またFRTが,食物を取るという動作と類似していたため,より効果を高める一因になったと思われる.今後は調理場面での変化を研究し,ゆくゆくは脳性麻痺児・発達性協調性運動障害児への応用に役立てたい.