第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

基礎研究

[OP-2] 一般演題:基礎研究 2/内科疾患 1

2022年9月16日(金) 15:40 〜 16:50 第5会場 (RoomB)

座長:東 登志夫(長崎大学)

[OP-2-5] 口述発表:基礎研究 2/内科疾患 1急性期医療機関における労働者への作業療法に関する考察

佐藤 さとみ1岩崎 真由美2吉岡 祐一郎2鈴木 久美子3 (1独立行政法人労働者健康安全機構東京労災病院治療就労両立支援センター,2独立行政法人労働者健康安全機構東京労災病院中央リハビリテーション部,3独立行政法人労働者健康安全機構東京労災病院リハビリテーション科)

【背景】本邦の労働人口は,年々高齢化している(総務省:国勢調査・労働力調査等).また,病気やケガをする労働者は増加傾向であり,特に中高年層の労働者で,転倒事故や疾病罹患による入院治療が増加している(厚生労働省:労働災害発生状況・国民生活基礎調査等,独立行政法人労働者健康安全機構:入院患者病職歴調査).
【目的】急性期医療機関A病院に入院しリハビリテーションが処方された労働者の属性および労働者を対象とした作業療法の状況を調査し,増加が予測される労働者への作業療法について考察する.
【方法】1.2017年4月から2021年3月にA病院に入院し,リハビリテーションが処方された全患者を診療記録から後方視的に調査し,発症時に就労していた者を有職者とする.調査項目は,年齢,性別,就労の有無,復職転帰とする.2.A病院在籍の作業療法士5名を対象に,有職者への作業療法の実施状況および患者の年齢と復職の影響について自記式質問紙法を用いて調査する.本調査は,東京労災病院倫理審査委員会の承認を得ている.
【結果】1.全患者延べ数6211名,うち有職者1452名(23.4%)で,平均発症時年齢は全患者73.4±16.5歳,有職者55.9±15.6歳(39歳未満16.3%,40-64歳49.3%,65-74歳23.9%,75歳以上10.5%)であった.復職転帰は,原職復帰1035名(70.3%,平均54.4歳),部分復帰64名(4.4%,平均54.8歳),配置転換16名(1.1%,平均49.6歳),再就労9名(0.6%,40.8歳),退職147名(10.1%,65.1歳),不明180名(12.4%)であった.2.作業療法士は,経験年数・勤続年数とも平均11.6年,脳血管疾患,整形外科系全般,手の外科に携わることが多い集団で,有職者への作業療法は80%が経験していた.有職者の作業療法評価は,一般的な疾病関連の評価に加え,職務内容や通勤に関する情報収集,詳細な高次脳機能評価,瞬発力・持久力等を含む作業遂行能力評価を実施していた.一方,評価に必要と考えるが実施できていないものとして,職場訪問や丁寧な聴取による情報収集,1日あるいは1週間を通した身体的・精神的耐久性の評価を挙げた.有職者の作業療法プログラムは,一般的な疾病関連のプログラムに加え,職務に要する動作の模擬練習,作業遂行と休息・休憩の指導を実施していた.一方,プログラムに加えたいが実施できていないものとして,心理面への対応を挙げた.年齢と復職の影響は,「理解」「治療」「病気やケガの内容」「回復過程」「病気やケガの再発」の各項目で80%が影響ありと回答した.また,年齢が若いほど,復職意欲が高く回復が早い,年齢が高いほど,既往歴が多く病気やケガの程度も重く,再発や退職が多い印象を持っていた.
【考察】本調査から,急性期医療機関A病院でリハビリテーションが処方された患者の約23%が有職者で,中高年層に多かった.有職者の作業療法では,身体機能・認知機能に加え,職務・通勤に関する情報から模擬的作業を提供し,労働に耐えうる作業遂行能力の回復を重視していた.作業療法の強みは,作業分析の技術にある.ただし,患者から職務内容等を聴取しても,作業療法士自身が想像できず把握が難しいこともある.また,患者やその家族にとって労働収入が生活の主な基盤である場合,入院治療による長期休暇や減収,退職に至っても生活ができるかは重大な課題であり,治療意欲や復職意欲に影響する.このように,労働者への作業療法は,就労・職務に関する幅広い知見と共に,想像力とインタビュー力が望まれる.また,労働と生活の関係を聴取し,社会福祉士や両立支援コーディネーター等の相談者につなぐことも心理面への対応のひとつとなる.