第56回日本作業療法学会

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一般演題

基礎研究

[OP-3] 一般演題:基礎研究 3

Sat. Sep 17, 2022 9:00 AM - 10:00 AM 第6会場 (RoomB-1)

座長:金子 翔拓(北海道文教大学)

[OP-3-2] 口述発表:基礎研究 3Mental-Checkerと質問紙による心理検査の関連と虚構性に関する検討

石川 真太郎1木村 大介12山田 和政13
(1医療法人和光会山田病院リハビリテーション部,2関西医療大学保健医療学部,3星城大学リハビリテーション学部)

【背景】心理検査の質問紙法では,実在する物体を測定する実証科学とは異なり,目に見えない心理を扱うため,心理状態を質問するという間接的方法で測定する.その場合,質問の受け手がある程度回答の操作が可能という欠点や,反応歪曲などがあるため,標準化された心理検査においても完全に虚構性を排除できない.特に,不安や神経質の有無など,社会的に望ましくない状態を問うとよりバイアスがかかりやすい.これら虚構性問題を解決するためには,実証科学と同様,物理的に測定できる物から心理状態を推し量る必要がある.最近になり,無意識の身体の振動を抽出するVibraimage技術に基づき,映像を解析して人の心理状態を判定するMental-Checker(以下,MC)が開発された.MCは,身体の微振動に加え,眼球運動や表情から心理状態を推し量ることから虚構性の問題は排除できる.
【目的】本研究では,質問紙法の心理検査と,無意識の身体反応から心理状態を推し量るMCとの関連性を分析することで,質問紙法が包含する虚構性について確認することを目的とした.
【方法】対象は,若年健常者30名である.方法は,対象者の心理状態をMCと質問紙で評価した.MCで出力されるパラメータはポジティブ要素(安定性,カリスマ性,活力,自制心),ネガティブ要素(攻撃性,ストレス,緊張,疑心),生理的反応(抑圧,神経質)である.一方,質問紙法の心理検査は,CMI健康調査表(以下,CMI),顕在性不安尺度(以下,MAS),改訂版パーソナリティ・インベントリィ(以下,INV),日本版STAI状態・特性不安検査(以下,STAI)を用いた.これら心理検査は,虚構性問題の影響を受けやすい不安と神経質を主に評価する.検査手順は,MCで精神状態の計測を行い,別日の同時刻に質問紙の回答を得た.MCの測定は,測定時の注意点を遵守し,解析ソフトを起動させたパソコンに取り付けたカメラを60秒間注視し,画像データを取り込み,解析を行った.統計解析は,MC結果と質問紙法の心理検査得点でSpearmanの順位相関係数を算出した.なお,本研究は著者の所属機関倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】MCのポジティブ要素とCMI神経症判別(r=0.440),CMI抑うつ(r=0.401),STAI状態不安(r=0.388),STAI特性不安(r=0.397),MAS得点(r=0.451)で,MCの生理的反応とCMI神経症判別(r=-0.481),CMI不安(r=-0.408),STAI状態不安(r=-0.447),STAI特性不安(r=-0.374),INV神経質(r=-0.365)で有意な相関がみられた.
【考察】本結果ではMCと質問紙とは相関関係が認められ,MC,質問紙双方とも心理状態の変化は一定範囲で観測できているが,中等度の相関にとどまり,2つは似て異なると考えられる.本結果の詳細を確認するとMCの心理的ポジティブと質問紙の不安は負の相関関係にあり,これはMCで心理状態がポジティブである者ほど質問紙では不安があると回答していることになる.心理状態がポジティブで自信のある者は,少し不安があるように見られたいという反応歪曲の一端が見られた可能性が考えられる.一方神経質では,MCにおいて神経質を観る生理的反応が高い者ほど質問紙では神経質がないと回答する傾向にあった.神経質である者ほど他者にそれを隠したいという社会的望ましさバイアスの一端が見られたのかもしれない.このように,身体的反応から心理状態を推し量るMCと質問紙との関連性を検討した結果,MCが虚構性問題を排除できていると考えれば,質問紙の解釈には,虚構性の問題を念頭に置き実施することが望まれる.一方では,MCでみる心理状態が本当の心理を測定できているかの妥当性に関しては更なる検討が必要である.