第56回日本作業療法学会

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一般演題

基礎研究

[OP-4] 一般演題:基礎研究 4

Sat. Sep 17, 2022 10:10 AM - 11:10 AM 第6会場 (RoomB-1)

座長:平川 裕一(弘前大学大学院)

[OP-4-2] 口述発表:基礎研究 4健常成人における片手での前開きシャツの脱衣パターンの比較

~頭部先行型と袖口先行型の所要時間と遂行難易度の違い~

平山 美里1新山 真由1岡 徳之1 (1医療社団法人健育会 ねりま健育会病院 リハビリテーション部)

【序論】脳卒中片麻痺患者に前開きシャツの脱衣動作を指導する方法としては,非麻痺手から脱ぐ(袖口先行型脱衣)ことが基本であると教科書では示されている.しかし,高次脳機能障害等を呈した対象者にとっては,複雑な工程であり難渋されることがあり,頭部から脱ぐ(頭部先行型脱衣)方法を選択する場合もある.頭部先行型脱衣は,袖口先行型脱衣と比較して,工数が少ないために脱衣を短時間で行える可能性が考えられるが,検討されていない.また,2つの脱衣方法の遂行難易度について比較検討されている報告は見当たらない.
【目的】予備的研究として,健常者を対象に,片手での前開きシャツの脱衣方法の遂行難易度と所要時間の違いを調査する.
【方法】当院のリハビリテーションスタッフ10名(男性6名,女性4名,平均年齢29.4±7.9歳)を対象に,非利き手のみでの前開きボタンシャツの脱衣を依頼した.観察に基づき,脱衣の開始箇所によって脱衣の型を分類した.遂行難易度は,普段の脱衣を5とし,高値ほどやりやすいと定義して0〜10の値で聴取した.その後,もう1つの脱衣方法(1回目が袖口先行型脱衣の場合,頭部先行型脱衣)を教示し,遂行後に遂行難易度を聴取した.また,それぞれの脱衣方法の所要時間を記録した.2つの脱衣方法の遂行難易度,及び所要時間は,対応のあるt検定で比較した.解析には,IBM StatisticSPSS ver.24を用いた.尚,本研究は当院の倫理委員会にて承認され,被験者より書面での同意を得た上で実施した.
【結果】初回の脱衣は,全対象者が袖口先行型脱衣であり,2回目は頭部先行型脱衣であった.対象者の4名が袖口先行型脱衣,6名が頭部先行型脱衣が行いやすいと回答した.後頭部で結髪している場合や,インナーシャツまで脱げてしまう場合には,袖口先行型脱衣の方が遂行しやすいと回答する傾向にあった.脱衣の遂行難易度の平均値(標準偏差)は,袖口先行型脱衣が2.5(0.7),頭部先行型脱衣が3.7(2.2)であり,頭部先行型脱衣の方が高値であったが,両者の間には有意差は認めなかった.しかし,中等度の効果量を示した(t(9)= 1.585, P = 0.147, 効果量 r = 0.47). 脱衣の所用時間の平均値(標準偏差)は,袖口先行型脱衣が22.2(10.9)秒であり,頭部先行型脱衣が12.5(4.7)秒であり,頭部先行型脱衣の方が,袖口先行型脱衣よりも有意に短かった(t(9)=2.564, P = 0.030, 効果量 r = 0.65).
【考察】頭部先行型脱衣は,脱衣時間がより短く,難易度は低い可能性を示した.頭部先行型脱衣は,脱衣中に視覚情報が一時的に遮断される欠点もあるが,全てのボタンを外すことなく脱衣が可能であることや,左右上肢の末梢近くまで袖を同時に下ろすことができることが考えられる.複数の工程を理解し遂行することが困難な対象者にも活用しうる利点もある.前開きシャツは,ボタンやファスナーを開かなければ,かぶりシャツと同様の脱衣方法が可能であり,前開きシャツであるという構造的理由で,袖口先行型脱衣を選択する理由にはならない.対象者の衣服の選択肢を広げるために,衣服の構造に依存しない方法の提供が必要であることが改めて必要であると考える.今回,袖口先行型脱衣が初回の脱衣方法として全対象者に選択された要因は,リハビリテーションスタッフを対象に実施したために,教科書において前開きシャツは非麻痺手から脱ぐことが基本と示されているためであるかもしれない.今後は,被験者を増やすとともに,片麻痺患者に対する脱衣方法の教育を受けていない対象者についても検討したい.