第56回日本作業療法学会

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一般演題

基礎研究

[OP-4] 一般演題:基礎研究 4

Sat. Sep 17, 2022 10:10 AM - 11:10 AM 第6会場 (RoomB-1)

座長:平川 裕一(弘前大学大学院)

[OP-4-3] 口述発表:基礎研究 4握力測定における手指の完全伸展が困難な症例に対する握り幅の設定方法の提案

新山 真由1平山 美里1岡 徳之1 (1医療法人社団 ねりま健育会病院)

【序論】握力は,上肢機能を示す1つの指標として身体障害分野の作業療法で計測される.握力測定を行う上で,握り幅は測定値に影響を与える重要な因子である.これまで握り幅を数値化するために手の構造を指標とした測定方法が複数報告されている.しかし,これらの指標の測定方法は,手指の完全伸展が必要であり,臨床現場で散見される手指の完全伸展が困難な対象者への活用のしにくい場合がある.そこで,我々は,手指完全伸展が困難な症例に対しても設定できる新たな測定方法が必要であると考えた.
【目的】手指の完全伸展が困難な症例にも適応できる計測指標を探索するとともに,その指標に基づく握り幅,及び握力測定値が,従来報告にて提案されている指標により得られた値と有意な差を認めず,活用しうる手法であるか検討する.
【方法】上肢機能障害を生じうる既往疾患のない健常成人10名(男性4,女性6,平均年齢 [標準偏差]:27.6[4.8])を対象にした.対象者が握りやすい幅を指標①とした.手部の構造を基に握り幅を設定する指標として,手指伸展せず測定可能な握り幅(遠位手掌皮線から遠位手首皮線までの長さ) を新たな指標(指標②)として設定した.従来報告に基づく3指標は,手長の35%の長さ(指標③),示指尖端から母指 基根部間の距離の 1/2の長さ(指標④),遠位手掌皮線から示指の近位指節関節までの距離に 0.5 cmを加えた長さ(指標⑤)とし,全5指標の握り幅と,それに基づく握力を測定した.握力測定には,スメドレー式デジタル握力計(竹井機器)を用い,肢位は立位にて上肢を下垂させ手関節軽度背屈位させた状態から上肢が体幹に触れない位置で測定した.反復測定による疲労の影響を考慮し,計測間で180秒の休憩を設けた.5つの指標から得られた握力計の握り幅と握力を,反復測定分散分析(Repeated measures ANOVA, Bonferoni)を用いて比較した.有意水準は5%とした.解析には,IBM SPSS Statistics ver. 24を用いた.本研究は当院の倫理委員会で承認され,対象者から紙面にて研究参加と学術発表の同意を得た上で実施した.
【結果】各測定方法で定めた握り幅の平均値(標準偏差)は,指標①が5.8(0.6),指標②が5.8(0.5),指標③が6.2(0.4),指標④が5.6(0.4),指標⑤が5.7(0.6)であり,指標③は,他の4指標よりも有意に幅が広かったが(F(4,36)= 11.04, MSe = 0.062, P < 0.01),指標①,指標②,指標④,指標⑤の間には,有意差は認めなかった(P < 0.05).すなわち,新たな提案に基づき設定した握り幅(指標②)は,対象者が握りやすいと感じる握り幅(指標①)と有意差は認めなかったことを示す.各握り幅で測定した握力の平均値(標準偏差)は,指標①が34.3(7.5),指標②が33.6(6.9),指標③が32.8(6.5),指標④が34.1(6.8),指標⑤が33.5(6.7)であり,全指標間で有意な違いは認めなかった(F(4,36)= 1.684,MSe = 2.109,P < 0.01).
【考察】今回提案した手指伸展を必要としない握り幅(遠位手掌皮線から遠位手首皮線までの長さ)の測定方法は,対象者自身が握りやすいと感じて設定した握り幅や従来報告の握り幅の握力との差を認めなかったことを示した.すなわち,従来提案されている握り幅と同様の精度で握力が計測できると考えられる.今後は,計測誤差等についての検討が必要である.