第56回日本作業療法学会

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一般演題

基礎研究

[OP-4] 一般演題:基礎研究 4

Sat. Sep 17, 2022 10:10 AM - 11:10 AM 第6会場 (RoomB-1)

座長:平川 裕一(弘前大学大学院)

[OP-4-4] 口述発表:基礎研究 4背側及び腹側運動前野による一次運動野に対する抑制は視覚運動制御に重要である

桑原 貴之1松本 卓也12柚木 啓輔1渡邊 龍憲1桐本 光1 (1広島大学大学院 医系科学研究科 感覚運動神経科学教室,2日本学術振興会 特別研究員)

【背景】
 身体運動軌跡や外部環境の変化などの視覚情報を把握し,オンラインで運動を修正する視覚運動制御機能は,日常生活において重要な役割を果たしている.また,脳機能イメージング研究により,この視覚運動制御には両側半球の一次運動野(primary motor cortex: M1),補足運動野(supplementary motor area: SMA),背側運動前野(dorsal premotor cortex: PMd),腹側運動前野(ventral premotor cortex: PMv),背外側前頭前野(dorsolateral prefrontal cortex:DLPFC)等の脳領域が関与していることが報告されている.しかしながら,これらの領域が運動指令を行うM1の興奮性に与える影響は明らかとなっていない.
【目的】
 本研究では,経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation: TMS)による二連発刺激を用いて,視覚運動制御における運動肢の対側M1と同側のM1,SMA,PMd,PMv,DLPFC間の神経機能連絡を検討することを目的とした.
【方法】
 右利き健常成人10名が参加した.被験者は,示指等尺性外転動作を用いて,モニター画面に視覚的にフィードバックされた発揮筋力値を目標値に合わせる課題を実施した.その際,視覚フィードバックの大きさ(Visual gain)を調整することで,発揮筋力値と目標値の誤差が大きくなるLow gain条件と,小さくなるHigh gain条件を設定した.課題中には,運動肢と対側のM1に対して試験刺激を行い,右第一背側骨間筋から皮質脊髄路の興奮性の指標である運動誘発電位(motor evokedpotential: MEP)を記録した.また,試験刺激の直前に運動肢と同側のM1,SMA,PMd,PMv,DLPFCに対して条件刺激を行った.そして,M1の興奮性の指標として,二連発刺激時のMEP振幅値を試験刺激のみの単発刺激時のMEP振幅値で正規化したMEP振幅比を算出した.発揮筋力の安定性と精確性の指標として,試験刺激前3000 ms区間の変動係数,標準偏差,平均力誤差を解析した.本研究は,所属機関の倫理審査委員会から承認を得て行った(第E-2261号).
【結果】
 変動係数は,Low gainと比較してHigh gainで減少する傾向(p = 0.09)を認め,平均力誤差は,Low gainと比較してHigh gainで有意に減少した(p = 0.009).MEP振幅比は,PMdとPMvに対して条件刺激を行った場合に,Low gainと比較してHigh gainにおいて,PMdとPMvで有意なMEP振幅比の減弱を認めた(PMd p = 0.017, PMv p = 0.0014).一方,M1,SMA,DLPFCに対して条件刺激を行った場合には,有意な差が認められなかった.
【考察】
 視覚情報を用いて発揮筋力を精確に調整する際には,運動肢と同側のPMvとPMdが,対側のM1に対して抑制性に作用することが明らかとなった.PMvは,運動の再プログラミングが必要となる状況において,対側M1に対して抑制性に作用することが報告されている.また,PMdは,視覚情報を用いた動作のオンライン修正に関与していることが報告されている.よって,視覚運動制御において,PMvとPMdは,発揮筋力値と目標値との誤差が増大した際に,実行している動作を抑制し,誤差を修正するために動作を再プログラミングする機能に関与している可能性が示唆された.一方,M1,SMA,及びDLPFCは,視覚情報制御において,対側M1の興奮性に直接的には関与しない可能性が示唆された.視覚情報を用いた運動の制御機能は,脳卒中等の中枢神経疾患や加齢によって低下することから,今後は有疾患者や高齢者を対象とした検討が期待される.