第56回日本作業療法学会

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一般演題

基礎研究

[OP-5] 一般演題:基礎研究 5

Sat. Sep 17, 2022 11:20 AM - 12:20 PM 第6会場 (RoomB-1)

座長:上谷 英史(弘前大学大学院)

[OP-5-2] 口述発表:基礎研究 5健常高齢者と若年健常成人における電子版Trail Making Test遂行時の上肢機能解析

西川 葵1大塚 昴弘3野口 直人2秋山 稜登2李 範爽2 (1医療法人尚豊会 みたき総合病院,2群馬大学大学院保健学研究科,3公益社団法人群馬県医師会 群馬リハビリテーション病院)

【はじめに】
 Trail Making Test(TMT)は注意機能スクリーニング検査から自動車運転適否判定まで広く用いられる代表的神経心理学的検査の一つである.課題遂行の延長に関わる要因としては分配性注意やワーキングメモリの低下など認知機能の影響が広く知られている.近年課題遂行時間に及ぼす利き手の影響など上肢機能に関連する研究が散見されるものの,運動生理学的指標に着目した研究は見当たらない.そこで,本研究では上肢動作に伴う加速度や空間移動軌跡などの指標を用いてTMT遂行中の上肢機能を計測,健常高齢者と若年健常成人間で比較検討した.
【方法】
 地域在住健常高齢者13名(76.9 ± 4.7歳,男性4名,女性9名)および,若年健常成人19名(21.5 ± 0.6歳,男性4名,女性15名)を対象に,電子版TMTを使用した計測を実施した.電子版TMTはタッチスクリーン画面上(31.5 × 23.5 cm)に配列された数字および平仮名について,紙版TMTと同じルールに従い,手に持った棒で素早く順番にタッチしていく課題である.赤外LEDセンサーによって計測された棒先端の座標情報から,課題遂行時間・最大加速度・空間移動距離を算出した.電子版TMT-AおよびTMT-Bそれぞれにおいて,高齢者と若年者の運動学的指標の差を対応のないt検定を用いて解析した.統計学的分析には,SPSS Statistics 21 for windowsを用い,有意水準は5%とした.なお,本研究は研究実施大学「人を対象とする医学系研究倫理審査委員会」の承認の上実施した.対象者には研究の目的・個人情報が保護されること,辞退・中断が可能であることを説明した上で測定を実施した.
【結果】
 高齢者群と若年者群のそれぞれにおいて,TMT-Aでは課題遂行時間は47.2 ± 11.7 vs. 26.3 ± 5.1sec,最大加速度は9.0 ± 3.0 vs. 6.5 ± 2.6 m/s2,空間移動距離は0.43 ± 0.13 vs. 0.27 ± 0.06 mであった.TMT-Bでは,課題遂行時間は137.9 ± 86.8 vs.34.5 ± 8.5sec,最大加速度は10.3 ± 5.1 vs. 6.6 ± 2.1 m/s2,空間移動距離は0.93 ± 0.48 vs. 0.32 ± 0.09 mであった.
【考察】
 加齢に伴うTMTの遂行時間の延長には上肢機能の低下,特に運動の滑らかさの低下(大きい最大加速度)とリーチ軌跡の延長(長い空間移動距離)が関係することが明らかになった.TMT結果を解釈する際は,注意機能や認知機能だけでなく,上肢機能の影響も考慮する必要があることが示唆された.