[OP-5-5] 口述発表:基礎研究 5eLORETA法による手工芸活動時のFmθ発生源推定
【研究の背景】
作業療法ではその介入手段の一つとして手工芸活動が用いられるが,その作用機序に踏み込んだ神経科学的側面からの効果を検証した報告はほとんどない.本研究の目的は,注意集中状態で出現される脳波活動Fmθ(Frontal midline theta rhythm)の発生源をeLORETA法(Pascual-Marqui et al.,2011)を用いて推定し,eLORETA法の有用性および作業療法が治療的有効性を発揮する生理的メカニズムの一端を明らかにすることである.なお,本研究は対象者に書面にて同意を得ており,帰属組織の倫理委員会の承認を受けて実施された.
【方法】
健常者28名を対象として実験を行い,このうち手工芸施行中に明確にFmθが出現した9名(22.4±1.6歳)を解析の対象とした.尚,Fmθの判断は,Fzにおいて最大振幅を示す5~7Hzの正弦波様のθリズムで,持続が1秒以上のものとし(Ishihara and Yoshii, 1972; Ishii et al., 1999),解析ソフトATAMAPⅡ(KISSEI COMTEC社製)を用いて高速フーリエ変換による周波数解析を行いFmθの出現有無を判断した.実験は安静条件3分に続いて,手工芸条件7分(ネット手芸)を実施し,条件中の脳波はBIO-NVX24を用い国際10-20法により定められた19部位から導出し,サンプリング周波数1000Hzにて記録した. eLORETA法による解析は,各条件で得られたデータを2秒ごとにエポックを抽出し,アーチファクトがないエポックを採用した.それらのデータをeLORETA プログラムに組み込まれている statistics analysis(Paired t-test)を用いて比較分析し,各条件における脳内神経活動の発生源同定を行い検討した.Fmθ信号源は安静条件と課題条件のデータを比較し,6239ボクセルに区分された脳領域に,有意水準5%未満で有意差を認めた部位を描画表出した.また,体性感覚刺激や動作の実行時に減衰するとされているμ波についても検討した.
【結果】
eLORETA法により,θ波周波数帯域での発生源の同定を各課題条件にて平均化し算出した結果,手工芸条件において前頭前野,運動野,運動前野,そして前帯状回に有意に高い神経活動性が認められた(p<0.05).また,μ波周波数帯域では,手工芸条件での頭頂葉における有意な減衰が認められた(p<0.05).
【考察】
Fmθの発生源については,先行研究において前頭前野および前帯状皮質(ACC)であることが明らかにされており(Ishii et al., 1999, 2014),本研究のeLORETA法による発生源同定の結果もそれを支持するものである.他方,暗算課題などの精神課題と比べ,手工芸活動が異なる点は,運動や感覚といった身体機能を多く使うという点にある.今回,手工芸活動中におけるμ波の減衰が確認されたことは,手工芸活動の特異性を明らかにしたと同時に,eLORETA法による脳活動の評価手法は,作業療法における効果的な治療手段の選択,及び治療方法の探索と開発に寄与することが大きいものと考える.
作業療法ではその介入手段の一つとして手工芸活動が用いられるが,その作用機序に踏み込んだ神経科学的側面からの効果を検証した報告はほとんどない.本研究の目的は,注意集中状態で出現される脳波活動Fmθ(Frontal midline theta rhythm)の発生源をeLORETA法(Pascual-Marqui et al.,2011)を用いて推定し,eLORETA法の有用性および作業療法が治療的有効性を発揮する生理的メカニズムの一端を明らかにすることである.なお,本研究は対象者に書面にて同意を得ており,帰属組織の倫理委員会の承認を受けて実施された.
【方法】
健常者28名を対象として実験を行い,このうち手工芸施行中に明確にFmθが出現した9名(22.4±1.6歳)を解析の対象とした.尚,Fmθの判断は,Fzにおいて最大振幅を示す5~7Hzの正弦波様のθリズムで,持続が1秒以上のものとし(Ishihara and Yoshii, 1972; Ishii et al., 1999),解析ソフトATAMAPⅡ(KISSEI COMTEC社製)を用いて高速フーリエ変換による周波数解析を行いFmθの出現有無を判断した.実験は安静条件3分に続いて,手工芸条件7分(ネット手芸)を実施し,条件中の脳波はBIO-NVX24を用い国際10-20法により定められた19部位から導出し,サンプリング周波数1000Hzにて記録した. eLORETA法による解析は,各条件で得られたデータを2秒ごとにエポックを抽出し,アーチファクトがないエポックを採用した.それらのデータをeLORETA プログラムに組み込まれている statistics analysis(Paired t-test)を用いて比較分析し,各条件における脳内神経活動の発生源同定を行い検討した.Fmθ信号源は安静条件と課題条件のデータを比較し,6239ボクセルに区分された脳領域に,有意水準5%未満で有意差を認めた部位を描画表出した.また,体性感覚刺激や動作の実行時に減衰するとされているμ波についても検討した.
【結果】
eLORETA法により,θ波周波数帯域での発生源の同定を各課題条件にて平均化し算出した結果,手工芸条件において前頭前野,運動野,運動前野,そして前帯状回に有意に高い神経活動性が認められた(p<0.05).また,μ波周波数帯域では,手工芸条件での頭頂葉における有意な減衰が認められた(p<0.05).
【考察】
Fmθの発生源については,先行研究において前頭前野および前帯状皮質(ACC)であることが明らかにされており(Ishii et al., 1999, 2014),本研究のeLORETA法による発生源同定の結果もそれを支持するものである.他方,暗算課題などの精神課題と比べ,手工芸活動が異なる点は,運動や感覚といった身体機能を多く使うという点にある.今回,手工芸活動中におけるμ波の減衰が確認されたことは,手工芸活動の特異性を明らかにしたと同時に,eLORETA法による脳活動の評価手法は,作業療法における効果的な治療手段の選択,及び治療方法の探索と開発に寄与することが大きいものと考える.