第56回日本作業療法学会

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一般演題

基礎研究

[OP-6] 一般演題:基礎研究 6/援助機器 3

Sat. Sep 17, 2022 3:10 PM - 4:20 PM 第8会場 (RoomE)

座長:務台 均(信州大学)

[OP-6-2] 口述発表:基礎研究 6/援助機器 3両側運動前野に対する経頭蓋静磁場刺激が視覚刺激選択反応課題の精度に及ぼす影響

松本 卓也12芝田 純也3美馬 達哉4砂川 融5桐本 光1 (1広島大学大学院 医系科学研究科 感覚運動神経科学教室,2日本学術振興会 特別研究員,3新潟医療福祉大学 運動機能医科学研究所,4立命館大学 先端総合学術研究科,5広島大学大学院 医系科学研究科 上肢機能解析制御科学)

【背景】経頭蓋静磁場刺激(transcranial static magnetic field stimulation: tSMS)は,頭皮上に強力なネオジム磁石を置くことのみで大脳皮質の興奮性をモデュレートする.2011年のOlivieroらによる報告以来,tSMSは,従来の経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation: TMS)や電流系刺激と比較して,安全性が高く,安価で簡便な非侵襲的脳刺激法として注目されている.これまでに一次体性感覚運動野,補足運動野,前頭前野などの様々な脳領域に対する介入効果が確認されてきた(Kirimoto et al, 2014; 2016; 2018; 2020; 2021)が,運動前野(premotor cortex:PM)への適応報告はない.ジストニア患者の背側PMに抑制性の低頻度反復TMSを行った結果,この領域の過活動の抑制と症状の改善が認められたという報告がある(Murase et al, 2005).本研究ではその代用ツールとしてのtSMSの可能性を検証するために,健常研究協力者を対象としたパイロットスタディを実施した.PMは視覚情報の認知から動作の誘導と選択を行うときに重要な神経ネットワークの一部であり,両側が相補的に機能する(O’Shea et al, 2007).以上により,本研究は,片側または両側PMへのtSMSが単純反応課題(simple reaction task: SRT)および選択反応課題(choice reaction task: CRT)の精度に及ぼす影響を検証することを目的とした.
【方法】右利きの健常成人9名(23.3±2.7歳,男性7名)がPM(TMSで同定した一次運動野内の手指領域より2 cm前方)に対する20分間のtSMS前後,および15分後にSRTとCRTを行った.予備実験にて従来型の単体ネオジム磁石を使用した場合,片側,両側にかかわらず介入効果が認められなかったため,本研究では3つのネオジム磁石を円環状に配置したシン磁場刺激装置(芝田,美馬,桐本ら,2020)を使用した.刺激条件は運動肢と対側(片側),両側,疑似刺激の3つとした.視覚刺激には,モニタにランダムに提示される4種類の図形を用いた.被験者は,SR課題では図形の種類にかかわらず視覚刺激に応じて右示指で,CR課題では図形の種類に応じて右示指または中指でボタンを押した.視覚刺激提示からボタンを押すまでの時間をRTとした.正しく反応した施行(正反応)のRTとその標準偏差(standard deviation: SD)および正反応の割合を解析対象とした.実験はヘルシンキ宣言に則った内容で計画され,実施には所属する機関の臨床研究倫理審査委員会の承認を得た(C-332).実験開始前に被験者には十分な説明を行い,書面にて本研究参加の同意を得た.
【結果】片側PMに対するtSMSと比較し,両側刺激条件ではCR課題におけるRTのSDが刺激直後のみ有意に上昇した(p < 0.05).一方,SR課題とCR課題のRTおよび正反応の割合にはtSMSの刺激条件による差が認められなかった.
【考察】本研究では,シン磁場刺激装置を用いた両側PMへのtSMSを20分間行った結果,CR課題におけるRTのSDは有意に増大したが,両課題におけるRTの遅延は認められなかった.これらの結果から,シン磁場刺激装置を用いた両側PMに対するtSMSは,視覚刺激選択反応課題における応答の安定性を低下させることが示唆された.反復TMSと比較して,tSMSは安全かつ簡易に両側半球への刺激ができるが,その介入効果はCRTのRTを遅延するには至らなかった.今後は,PMに対するtSMSは,その興奮性,または機能に対して抑制性に作用するか否かについて介入効果の評価方法を工夫し,非侵襲的脳刺激ツールとしてのtSMSの可能性をさらに探策する必要がある.