第56回日本作業療法学会

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一般演題

管理運営

[OQ-2] 一般演題:管理運営 2

Sat. Sep 17, 2022 12:30 PM - 1:30 PM 第6会場 (RoomB-1)

座長:鈴木 達也(聖隷クリストファー大学)

[OQ-2-5] 口述発表:管理運営 2危険の見逃しに着目した熟練者と非熟練者の視線探索の比較

アイトラッカーを用いた分析

有久 勝彦1松下 航1蘭 文雄2大町 昭彦3本多 亮平3 (1国際医療福祉大学福岡保健医療学部,2香椎丘リハビリテーション病院,3千鳥橋病院)

【序論】転倒・転落はリハビリテーションにおける医療事故で最も多い事故であり,それらを未然に防ぐ取り組みは病院施設において不可欠なものである.近年,転倒・転落を予防するための方略として,アイトラッカーなどの視線分析を用いた熟練者と非熟練者の危険探索の違いが報告されている.そこでは注視時間の違いや危険認知回数の違いなどアイトラッカーの特徴を踏まえ,危険箇所を正しく見れているかがよく比較検討されているが,見ていても危険を正しく認知できているかどうかについては検討されていない.そこで,本研究では危険状況を正しく認知できずに見逃す現象は経験によってどの程度起こっているのかを明らかにすることにした.
【目的】本研究の目的は,危険を見逃す状況が熟練者と非熟練者の間でどの程度違いがあるのかを検証し,その差を明らかにすることで非熟練者の危険を見逃す状況を把握し臨床や養成校における管理運営としてのリスク教育プログラムの開発の一助とすることである.
【方法】対象:現在病院で実務している作業療法士で経験年数5年以上の熟練者11名(経験年数12.1±4.4年)と4年次学生11名(平均年齢21.5±0.9歳)を対象とした.対象者には同意を書面で得た上で研究を実施した.
方法:対象者にアイトラッカー(Tobii製;Tobii Pro Glasses2)を装着してもらい,危険発見時の視線移動を探索するため,危険予知能力を測定できる評価Time Presure-Kiken Yochi Training効果測定システム(以下,TP-KYT)を実施した.TP-KYTの5場面のうち,「場面2(移乗場面)」の状況図における得点部分を関心領域として設定し,関心領域を見ているのに得点化されていない回数(危険の見逃し回数),及びTP-KYTの総得点と場面2(移乗場面)の得点を比較した.
分析:関心領域に対する危険の見逃し回数については,χ2乗検定にて比較し,有意差が見られた場合,残差分析を行うこととした.また,リスク推定としてオッズ比を確認した.TP-KYTの総得点と場面2(移乗場面)の得点の比較についてはMann-WhiteyのU検定を実施した.全ての統計処理はSPSS(IBM SPSS Statistics 27.0)を用い,危険率5%未満をもって有意とした.
倫理的配慮:本研究は筆頭筆者が所属する倫理審査委員会の承認を得て実施した(14-Ifh-08).
【結果】TP-KYTにおける関心領域の見逃し回数/見た回数は,熟練者9/30回,学生16/26回であり,χ2乗検定を行った結果,有意な差が得られた(p=0.018).残差分析の結果,学生は熟練者に比べて有意に見逃しが多いことが示された.リスク推定のオッズ比3.733であり,学生の見逃しが多いことが示唆された.総得点の平均は,熟練者200.9±45.9点,学生126.8±48.9点(総得点425点)であった(p=0.005).また,今回の分析で用いた「場面2」の得点の平均は,熟練者43.6±21.7点,学生23.6±14.8点(満点95点)であった(p=0.008).
【考察】今回,アイトラッカーを用いて熟練者と学生の危険状況の見逃しについて検討を行った.本研究の結果より,TP-KYTの得点化対象となる関心領域を見た総回数に大きな違いはないが,得点には大きな違いがみられており,学生は熟練者に比べ危険状況を見ているにも関わらず正確に認知できていないことが明らかとなった.そこには,危険判断における個々人のリスク認知バイアスが関与している可能性が考えられる.養成校や初任者のリスク教育においてはリスク認知バイアスを確認し,見逃しをいかに少なくするような教育ができるかが重要であることが示唆された.今回は1場面での検討であったため,今後は場面や疾患など危険判断に影響を与える因子を変更しても同様の傾向がみられるのか,さらに検討する必要があると考える.