[OQ-3-1] 口述発表:管理運営 3/援助機器 2秋田大学医学部附属病院における精神科作業療法の開設から1年を振り返る
【序論】本学附属病院では精神科作業療法が新設され1年が経過した.報告者は精神科作業療法の施設基準に準じた開設準備から参入し,その後対象者が望む生活に向けた作業療法を実践してきた.これまで精神科作業療法が処方された対象者を精神疾患の診断基準に応じて分類したところ,当院の特徴として気分障害患者の処方件数が多いことが明らかになった.
本報告の目的は,気分障害におけるうつ症状に焦点を当て,それらの対象に対する精神科作業療法の治療経過を予備的に検証することである.
【方法】本研究のデータ収集期間は2021年2月6日から2022年2月13日であった.分析対象は主治医よりICD-10に準じて気分障害と診断され,精神科作業療法が処方された入院患者とした.また,対象のうつ症状を評価するためにハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Depression Rating Scale,以下HDRS)が入退院時に実施された.
作業療法計画はリハビリテーション同意計画書をもとに面接を行い,対象者の望む生活に向けた目標設定を行った.また,生活リズム,困り感,住環境,ストレス因など面接を通して明らかにすることで支援課題を対象者と共有した.精神科作業療法は週8単位の手工芸,運動療法からなり,参加頻度は状態に合わせて随時調整を行った.集団への適応が難しい対象者には個別対応から開始することもあった.チームカンファレンスは入退院時と精神科作業療法開始後2週間で実施され,これまでの経過を含め今後の方針が共有された.
統計学的検討として,Shapiro-Wilk検定による正規性の検定が行われた後,入院時と退院時のHDRSスコアを比較するためにWilcoxonの符号付順位検定が適用された.統計処理はIBM SPSS 28.0を用いて実施され,統計学的有意水準は5%に設定された.倫理的配慮として本報告の趣旨を口頭で説明し,発表の同意を得た.
【結果】分析対象は35名(男性17名,女性18名)であり,対象の基本属性として平均年齢±標準偏差は56.9±18.3歳,平均在院日数は57.6±28.1日であった.作業療法への平均参加回数は12.2±8.0回であった.また,HDRSスコアの中央値(四分位範囲)は,入院時で16.0(12.0)点,退院時で5.0(4.0)点であった.Wilcoxonの符号付順位検定の結果に応じて,退院時HDRSスコアは入院時と比べて有意に低かった(p<0.01).
【考察】気分障害入院患者に対する精神科作業療法の治療経過を検証するために入院および退院時のHDRSスコアを比較した結果,退院時のHDRSスコアは入院時と比べて有意に改善していた(p<0.01).気分障害入院患者に対する精神科作業療法の介入に関して,入院早期から作業療法士が関与することは対象者のリハビリテーションの意識を高め症状の遷延化を防ぐ1)と指摘されている.加えて,多職種のカンファレンスにOTが参加した群と参加しなかった群においてWHODASスコアを比較した研究では,参加群のWHODASスコアが改善傾向にある2)と指摘されている.以上を踏まえて,精神科作業療法を含むチームアプローチは気分障害入院患者のうつ症状の軽減に有効であると推察された.今後の課題として,気分障害のみならず各精神疾患の入院患者に対する治療経過も検証し,当院における精神科作業療法の開設による有効性について体系的にまとめていく必要がある.
1) 香山明美:気分障害.香山明美,他(編):生活を支援する精神障害作業療法-急性期から地域実践まで 第 2 版.医歯薬出版,p.260-269,2014
2) 一般社団法人 日本作業療法士協会:当事者が望む生活を実現するための精神科の作業療法のあり方検討委員会報告書.p.11,2021
本報告の目的は,気分障害におけるうつ症状に焦点を当て,それらの対象に対する精神科作業療法の治療経過を予備的に検証することである.
【方法】本研究のデータ収集期間は2021年2月6日から2022年2月13日であった.分析対象は主治医よりICD-10に準じて気分障害と診断され,精神科作業療法が処方された入院患者とした.また,対象のうつ症状を評価するためにハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Depression Rating Scale,以下HDRS)が入退院時に実施された.
作業療法計画はリハビリテーション同意計画書をもとに面接を行い,対象者の望む生活に向けた目標設定を行った.また,生活リズム,困り感,住環境,ストレス因など面接を通して明らかにすることで支援課題を対象者と共有した.精神科作業療法は週8単位の手工芸,運動療法からなり,参加頻度は状態に合わせて随時調整を行った.集団への適応が難しい対象者には個別対応から開始することもあった.チームカンファレンスは入退院時と精神科作業療法開始後2週間で実施され,これまでの経過を含め今後の方針が共有された.
統計学的検討として,Shapiro-Wilk検定による正規性の検定が行われた後,入院時と退院時のHDRSスコアを比較するためにWilcoxonの符号付順位検定が適用された.統計処理はIBM SPSS 28.0を用いて実施され,統計学的有意水準は5%に設定された.倫理的配慮として本報告の趣旨を口頭で説明し,発表の同意を得た.
【結果】分析対象は35名(男性17名,女性18名)であり,対象の基本属性として平均年齢±標準偏差は56.9±18.3歳,平均在院日数は57.6±28.1日であった.作業療法への平均参加回数は12.2±8.0回であった.また,HDRSスコアの中央値(四分位範囲)は,入院時で16.0(12.0)点,退院時で5.0(4.0)点であった.Wilcoxonの符号付順位検定の結果に応じて,退院時HDRSスコアは入院時と比べて有意に低かった(p<0.01).
【考察】気分障害入院患者に対する精神科作業療法の治療経過を検証するために入院および退院時のHDRSスコアを比較した結果,退院時のHDRSスコアは入院時と比べて有意に改善していた(p<0.01).気分障害入院患者に対する精神科作業療法の介入に関して,入院早期から作業療法士が関与することは対象者のリハビリテーションの意識を高め症状の遷延化を防ぐ1)と指摘されている.加えて,多職種のカンファレンスにOTが参加した群と参加しなかった群においてWHODASスコアを比較した研究では,参加群のWHODASスコアが改善傾向にある2)と指摘されている.以上を踏まえて,精神科作業療法を含むチームアプローチは気分障害入院患者のうつ症状の軽減に有効であると推察された.今後の課題として,気分障害のみならず各精神疾患の入院患者に対する治療経過も検証し,当院における精神科作業療法の開設による有効性について体系的にまとめていく必要がある.
1) 香山明美:気分障害.香山明美,他(編):生活を支援する精神障害作業療法-急性期から地域実践まで 第 2 版.医歯薬出版,p.260-269,2014
2) 一般社団法人 日本作業療法士協会:当事者が望む生活を実現するための精神科の作業療法のあり方検討委員会報告書.p.11,2021