第56回日本作業療法学会

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一般演題

教育

[OR-1] 一般演題:教育 1

Fri. Sep 16, 2022 12:10 PM - 1:10 PM 第6会場 (RoomB-1)

座長:髙島 千敬(広島都市学園大学

[OR-1-4] 口述発表:教育 1義手の適合判定の現状と課題

能動義手の適合判定の見直しに向けて

柴田 八衣子1大庭 潤平2妹尾 勝利3 (1兵庫県立リハビリテーション中央病院,2神戸学院大学,3川崎医療福祉大学)

【はじめに】
 現在,「義手」は補装具の正式種目として上肢切断者に処方されている.適合判定は,義手が処方どおりに製作され切断者に対し十分な機能が発揮できているかの確認のために実施するが,その基準は必ずしも明確ではない.特に,能動義手では,適合検査の方法や基準値のばらつきにより臨床や教育,国家試験に至るまで混乱が生じている.
【目的】
 教科書に記載されている能動義手の適合検査を精査し,その現状を明らかにすることで,適合判定の見直しに向けた一助とする.
【方法】
 義手に関連する教科書(邦文・欧文)を対象文献とした.それらを共同研究者3名で精読し,能動義手の適合判定が掲載してあるものを選定し,前腕義手と上腕・肩義手の適合検査の設定や目的・手順,項目名,標準の基準値について一覧表を作成し,相違点について整理・分析した.
【結果】
 分析対象は12種類19冊で,①Manual of Upper Extremity Prosthetics second edition(Department of engineering・University of California at Los Angeles)1958年, ②Upper -extremity Prosthetics (New York University)1982年・1986年,③切断と義肢(医歯薬出版)1版1974年2014年・2版2016年,④義肢(医学書院)1版1991年,⑤義肢装具のチェックポイント(医学書院)5版1998年・6版2004年・7版2007年・8版2015年・9版2021年,⑥義肢装具ハンドブック(全日本病院出版会)1版2007年,⑦作業療法学全書 作業療法技術学Ⅰ義肢装具(協同医書出版)改訂3版2009年,⑧義肢装具学(医学書院)4版2009年,⑨義肢製作マニュアル(医歯薬出版)1版2010年,⑩義肢学(医歯薬出版)3版2015年,⑪リハビリテーション義肢装具学1版(メジカルビュー社)2017年,⑫義肢装具と作業療法(医歯薬出版)1版2021年であった.
 1)検査項目の分類
 検査項目は,義手単独・切断者単独・義手の操作と適合の検査に分類された.しかし,いくつかの書籍では,項目数や手順は統一しておらず,項目名も類似しているが同一した表記ではなかった.
 2)検査項目と標準の基準値
 前腕義手は,①装着時の肘関節の可動域測定で,同程度や-10°以内で,②身体各部位での手先具操作は,多くが70%以上で100%もあり,③伝達効率は,多くが70%で80%以上もあり,④張力安定性は,米国は50poundの牽引で1inch,日本では20~23㎏の牽引で1~2.5㎝とばらついていた.
 上腕・肩義手は,①伝達効率は,多くが50%で70%以上もあり,②義手回旋時のソケットの安定性は,項目はあるが基準値が無いや,検査そのものが無いものがあり,③回旋力に対するソケットの安定性は,検査設定と基準値にばらつきがあり,④張力安定性は,前腕義手と同様であった.
 また,同じ書籍でも,版の違いにより基準値が異なっているものもあった.
【考察】
 能動義手の適合検査の近似した項目・基準値など,様々な相違を明確にした.これは,米国の書籍を翻訳し版を重ねる過程で変化してきたと考える.義手の適合判定は,処方・製作に携わった医師・義肢装具士・作業療法士等が行う不可欠な業務である.そのため,多職種で連携して改めて日本版の適合検査・適合判定の基準を刷新する必要があると考える.