[OR-1-5] 口述発表:教育 1リスク発見時の熟練者と学生の注視部位はどこが異なるのか?
【はじめに】
実習において危険な場面に直面した場合,瞬時に起こりうる危険を予測し,対応する必要があり,転倒などの医療事故やヒヤリハットを経験した学生は少なくない.これらは,観察不足,確認不足,判断ミスによるヒューマンエラーの割合が高く,経験によってもリスク回避能力に違いがある.特に初任者はリスク回避能力が低く,熟練者になるほど素早くリスク判断ができる傾向にあるといわれている.熟練者同様に,実習教育として学生も危険を早期に発見・察知する力を得る必要性は十分にあると考える.信頼性,妥当性が検証された効果検証ツールとして,TP-KYT(Time Pressure-KikenYochi Training)効果測定システム(以下,TP-KYT)を用いて,熟練者と学生が,どの身体部位および環境を危険と予測・発見するのか,危険予知する能力の違いを検証した.回復期リハビリ病棟に入院中の患者を在宅復帰に導くうえで重要の争点となる「排泄動作」に着目し,実施した.
【目的】
熟練者と学生が,状況図を危険予測・発見する時の視線を捉え,特徴を明らかにする.
【方法】
対象は,研究協力の得られたA病院に勤務する熟練者PT・OT15名(9.73±2.2年目),A大学に在籍しているOT学生15名(4年生)を対象とした.方法は,TP-KYTは5場面が設定されているが,今回はTP-KYTの「場面③:トイレ場面」を用いた.アイトラッカー(Tobii製;Tobii Pro Glasses2)を装着した状態で,測定中の10秒間の動画を分析した.場面③の状況図における身体部位(顔,左上肢,右上肢,体幹)および環境(ズボン,空間,便器,歩行車)を関心領域として設定し,関心領域に対する視線の注視回数および注視時間を2群間(Mann-WhitneyのU検定)で比較した.統計処理はSPSS(IBM SPSS Statistics 27.0)を用い,危険率は5%未満とした.本研究は倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号第2021-02号).
【結果】
場面③におけるTP-KYTの全体得点の平均は,熟練者183.0±52.6点,学生114.3±51.8点(総得点425点)であった.場面③の得点の平均は, 熟練者54.0±13.0点,学生24.0±15.6点(80点満点)であった.関心領域に対する視線の注視回数の平均は,熟練者は1.13±0.64回,学生は2.53±1.55回であり,熟練者の方が体幹を少なく見ていることがわかった(P=0.01).また,注視時間の平均は,熟練者は0.54±0.74秒,学生は1.34±1.12秒であり,熟練者の方が体幹を短く見ていることがわかった(P=0.01).有差を認めなかった関心領域である顔(P=0.55),左上肢(P=0.80),右上肢(P=0.23)およびズボン(P=0.80),空間(P=0.46),便器(P=0.62),歩行車(P=0.95)の注視時間は,熟練者の方が短く見ている傾向にあった.
【考察】
熟練者と学生の視線の特徴を比較することで,熟練者は危険場面を観察する際には,体幹への注視回数や注視時間を短くみることだけでなく,他の身体部位または環境への危険箇所を短時間で探索しようとする傾向にあることが明らかとなった.一方で,学生のほうが熟練者よりも顔,左上肢,右上肢およびズボン,空間,便器,歩行車を注視する時間は長く見ているも,得点の平均が低い傾向にあることから,危険を発見・察知する力が不足している可能性があるが考えられる.今回,熟練者と学生の予測・発見する時の視線を分析したことで,熟練者が危険予知するために視線を素早く動かし,全体を大きくみることが示唆された.今後は,他の場面での状況図での実施を図り,熟練者の特徴を明らかにするとともに,学生や初任者へ危険予知に対する教育に役立てたい.
実習において危険な場面に直面した場合,瞬時に起こりうる危険を予測し,対応する必要があり,転倒などの医療事故やヒヤリハットを経験した学生は少なくない.これらは,観察不足,確認不足,判断ミスによるヒューマンエラーの割合が高く,経験によってもリスク回避能力に違いがある.特に初任者はリスク回避能力が低く,熟練者になるほど素早くリスク判断ができる傾向にあるといわれている.熟練者同様に,実習教育として学生も危険を早期に発見・察知する力を得る必要性は十分にあると考える.信頼性,妥当性が検証された効果検証ツールとして,TP-KYT(Time Pressure-KikenYochi Training)効果測定システム(以下,TP-KYT)を用いて,熟練者と学生が,どの身体部位および環境を危険と予測・発見するのか,危険予知する能力の違いを検証した.回復期リハビリ病棟に入院中の患者を在宅復帰に導くうえで重要の争点となる「排泄動作」に着目し,実施した.
【目的】
熟練者と学生が,状況図を危険予測・発見する時の視線を捉え,特徴を明らかにする.
【方法】
対象は,研究協力の得られたA病院に勤務する熟練者PT・OT15名(9.73±2.2年目),A大学に在籍しているOT学生15名(4年生)を対象とした.方法は,TP-KYTは5場面が設定されているが,今回はTP-KYTの「場面③:トイレ場面」を用いた.アイトラッカー(Tobii製;Tobii Pro Glasses2)を装着した状態で,測定中の10秒間の動画を分析した.場面③の状況図における身体部位(顔,左上肢,右上肢,体幹)および環境(ズボン,空間,便器,歩行車)を関心領域として設定し,関心領域に対する視線の注視回数および注視時間を2群間(Mann-WhitneyのU検定)で比較した.統計処理はSPSS(IBM SPSS Statistics 27.0)を用い,危険率は5%未満とした.本研究は倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号第2021-02号).
【結果】
場面③におけるTP-KYTの全体得点の平均は,熟練者183.0±52.6点,学生114.3±51.8点(総得点425点)であった.場面③の得点の平均は, 熟練者54.0±13.0点,学生24.0±15.6点(80点満点)であった.関心領域に対する視線の注視回数の平均は,熟練者は1.13±0.64回,学生は2.53±1.55回であり,熟練者の方が体幹を少なく見ていることがわかった(P=0.01).また,注視時間の平均は,熟練者は0.54±0.74秒,学生は1.34±1.12秒であり,熟練者の方が体幹を短く見ていることがわかった(P=0.01).有差を認めなかった関心領域である顔(P=0.55),左上肢(P=0.80),右上肢(P=0.23)およびズボン(P=0.80),空間(P=0.46),便器(P=0.62),歩行車(P=0.95)の注視時間は,熟練者の方が短く見ている傾向にあった.
【考察】
熟練者と学生の視線の特徴を比較することで,熟練者は危険場面を観察する際には,体幹への注視回数や注視時間を短くみることだけでなく,他の身体部位または環境への危険箇所を短時間で探索しようとする傾向にあることが明らかとなった.一方で,学生のほうが熟練者よりも顔,左上肢,右上肢およびズボン,空間,便器,歩行車を注視する時間は長く見ているも,得点の平均が低い傾向にあることから,危険を発見・察知する力が不足している可能性があるが考えられる.今回,熟練者と学生の予測・発見する時の視線を分析したことで,熟練者が危険予知するために視線を素早く動かし,全体を大きくみることが示唆された.今後は,他の場面での状況図での実施を図り,熟練者の特徴を明らかにするとともに,学生や初任者へ危険予知に対する教育に役立てたい.