第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

教育

[OR-2] 一般演題:教育 2

2022年9月16日(金) 13:20 〜 14:20 第6会場 (RoomB-1)

座長:青山 克実(九州栄養福祉大学)

[OR-2-2] 口述発表:教育 2性的マイノリティに関する教育が作業療法学生にもたらす影響

~質問紙を用いた前後比較による検討~

松本 武士1星野 藍子2園田 敦子3池谷 政直4中西 純5 (1医療法人社団大和会 大内病院 ACT,2名古屋大学大学院 医学系研究科 総合保健学専攻包括ケアサイエンス領域,3介護老人保健施設 ろうけん宮前,4名古屋女子大学 医療科学部,5ウィル訪問看護ステーション江戸川)

【序論】
 2015年以降,日本ではLGBTブームが生じ,性的マイノリティの社会的認知度が高まっている.2016年には医学教育モデル・コア・カリキュラムが改訂され,医師等の養成において性的マイノリティに関する教育が開始されたが,作業療法教育カリキュラムには取り入れられていない.松本(2020)の報告では作業療法士の知識等の水準は低く,教育の重要性が指摘されている.
【目的】
 性的マイノリティに関する教育が作業療法学生の知識等に与える影響を検討する.
【対象】
 A大学作業療法士養成課程に属する学生25名を対象とした.
【方法】
 A大学「作業学Ⅲ」にて連続講座「性の多様性と作業療法」を実施した.内容は基礎知識,性的マイノリティを取り巻く状況,性的マイノリティと医療,性的マイノリティと作業療法,マジョリティの当事者性を問う,今日からできること,とした.講座は全4回,各90分の360分で,うち120分はグループワークとし性的マイノリティのセラピストが進行役として参加した.
 調査は前後比較デザインとし講義前後に無記名式質問紙を配布した.項目は基本属性,性的マイノリティの学習経験,情報源,知識問題,所持知識量,アウェアネス,取り扱い難易度,支援の意思とし,設問は河口(2020),須長(2020)の修正引用と独自設問とした.統計的処理は単純統計のほか,所持知識量,アウェアネス,取り扱い難易度,支援の意思はLikert式順序尺度とし,前後比較にはR4.2.1にてWilcoxon signed-rank testを用いた.調査は倫理委員会の承認のもと実施した(名古屋大学:2021-0216,大内病院:2021-07).目的等を文書にて学生に説明し,質問紙提出をもって参加同意とした.
【結果】
 25名中19名が研究に参加した.年齢は20~25歳が95%であった.身体的性別および性自認は男性26%,女性74%であった.性的指向は異性愛90%,同性愛5%,両性愛5%であった.学習経験は16~26%で,情報源はインターネットとテレビが多かった.
 講義前後の比較では,所持知識量は有意に増加した(p < .01).知識の必要性は有意に増加した(p < .05).知識問題の平均正答率は講義前63%,講義後86%であった.アウェアネスは関係性(家族友人,リハ対象者,同僚)と属性(LGBT)の全ての組み合わせで「いる」「いると思う」の割合が向上した.そのうち「リハ対象者:レズビアン・バイセクシュアル女性」と「リハ対象者:トランスジェンダー」以外の組み合わせでアウェアネスの向上に有意性を認めた(p < .01).取り扱い難易度は有意差を認めなかった(p = .83).支援の意思は有意に増加した(p < .01).
【考察】
 性的マイノリティに関する教育が作業療法学生の知識等を改善することが示された.Morris(2019)は性的マイノリティに関する教育において,知識の獲得,偏見に焦点化した学習,当事者への接触が重要と指摘しており,本調査では講義内容と当事者の参与が該当したと考えられる.今後,これらの要素を国内の作業療法教育に取り入れ,教育効果を詳細に検討していく必要がある.また,取り扱い難易度に変化がなく,心理的ハードルの解消も今後の課題と考えられる.