第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

教育

[OR-3] 一般演題:教育 3

2022年9月17日(土) 11:20 〜 12:20 第7会場 (RoomD)

座長:関 一彦(帝京平成大学)

[OR-3-1] 口述発表:教育 3Problem-based Learningを用いた肩機能の改善に関する卒後研修プログラムの検証

四條 敦史12泉 良太2中島 ともみ3 (1島田市立総合医療センターリハビリテーション指導室,2聖隷クリストファー大学大学院リハビリテーション科学研究科,3藤田医科大学保健衛生学部)

【はじめに】脳卒中患者の30%が肩の痛みを伴っている.作業療法士(以下,OT)は作業に焦点を当てた治療,指導,援助を行う専門家で対象者の上肢機能を扱うことが多い.目標とする生活行為の獲得のために肩に痛みが生じないよう肩の機能を理解していることが大切である.しかし,肩機能の改善方法について卒前教育では適切な機能改善方法の知識が成書に十分に記されていない.卒後教育でも問題解決型学習等の教育理論に基づいた研修プログラムの介入研究はみられない状態であり効果的な卒後研修が求められているのではないかと考えた.
【目的】研修プログラムをインストラクショナルデザイン(以下,ID)を参考に作成し,その有用性を行動変容のレベル(カークパトリックモデルのレベル3)まで確認すること.
【方法】本研究はA大学倫理審査委員会の承認を得た(20057).研究デザインは介入研究,対象者は肩の機能改善方法習得に興味のあるOT45人,プログラムを受講したOTの上長5人とした.
研修プログラムを受講する前に受講者と上長にはそれぞれ事前アンケート・事前テストと事前調査により回答を得た.研修はWeb会議システムを使用したオンライン研修とし,講義および演習を1回のみ90分実施した.講義はスライドを使用,演習は動画視聴・デモンストレーション・体験実習(肩・文献検討)を行った.研修1か月後,受講者と上長より事後アンケート・事後テスト・事後調査にて回答を得た.
統計的手法について各反応・学習・行動変容のVisual Analogue Scaleの比較をWilcoxsonの符号付順位和検定を用いて検討し効果量(以下,ES)も算出した.学習と行動変容,行動変容と自信との相関関係についてはSpearmanの順位相関係数を用い,これらの統計解析にはEZRVer1.54 を使用し有意水準は 5%とした.
【結果】効果量が大であった項目について行動変容では,肩峰下インピンジメントを引き起こさないための肩甲胸郭関節の動き(ES=0.95,p<0.01)に関する知識・技術の臨床活用項目を始め,エビデンスの探求方法である文献の調べ方(ES=1.72,p<0.01)・見方(ES=1.75,p<0.01)の活用項目が有意に向上した.学習では,肩甲胸郭関節の動き(ES=1.81,p<0.01)に関する臨床活用項目の知識・技術の理解項目が有意に向上した.反応では,肩の自信(ES=0.92,p<0.01)・肩の文献を探す自信(ES=0.81,p<0.01)が有意に向上した.
項目間の相関について,肩甲胸郭関節の動きに関する知識理解と知識の活用(r=0.43,p<0.01),知識の活用と肩の機能改善に対する自信(r=0.52,p<0.01)との間に有意な正の相関がみられた.
文献の調べ方・見方の活用と文献を探す自信との間に有意な正の相関がみられた(r=0.52,p<0.01).肩の機能改善に対する自信・文献を探す自信とOT業務の自信との間に有意な正の相関がみられた(r=0.69,p<0.01).
【考察】今回,多くの評価項目で受講者の行動変容を促すことができた要因としてIDを用い研修を行えたことが挙げられる.また,今回の研修は肩の機能改善に必要な知識であるにも関わらず卒前に十分に教授されていない知識を教材として用いた.上記2点をふまえた卒後研修プログラムであったことが効果の高い結果に繋がったと考えられた.現代社会においてインターネットを使用し文献を調べて見る機会を与えることはOT業務の問題解決に汎化することも示唆された.