第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

教育

[OR-5] 一般演題:教育 5/理論 2

2022年9月18日(日) 09:40 〜 10:40 第4会場 (RoomA)

座長:井村 亘(玉野総合医療専門学校)

[OR-5-4] 口述発表:教育 5/理論 2医療従事者と学生のリスク発見時の視線特徴の違い

~アイトラッカーを使用して~

本多 亮平1大町 昭彦1有久 勝彦2 (1公益社団法人 福岡医療団 千鳥橋病院,2国際医療福祉大学 福岡保健医療学部)

【序論】リスク対応能力は経験によって違うといわれている.近年,COVID-19の影響により臨床実習指導における学生指導や卒後教育においても対面での学習時間を費やせないのが現状である.その為,リスク対策について体験を持って学習する機会は少なく,効率性を求めることは急務である.そこで我々は,学生と医療従事者の危険を発見する能力の違いを探索すべく,アイトラッカー(Tobii製;Tobii Pro Glass 2)を用いて眼球運動を分析し,視線移動の違いを検討した.
【目的】本研究の目的は,危険を発見する際の視線移動の方略の違いを探索することで,少ない体験の中でリスク教育をより効率よく実施できるようにすることである.
【方法】対象:PTOT(以下,医療従事者と略す)7名(平均経験月数168.3±62.3か月),OT養成校の4年生7名を対象とした.対象者には書面にて同意を得た上で研究を実施した.
方法:リスク予知能力を測定できる評価法であるTime pressure-Kiken Yochi Training 効果測定システム(以下,TP-KYT)の場面4(浴室場面)のイラストに10秒間で危険だと感じた箇所にチェックを入れてもらい,その際の眼球運動をアイトラッカーにて測定した.TP-KYTのイラスト内の人物を関心領域として設定し,関心領域に対するTotal Visit Duration(関心領域に滞在した固視の時間の合計),Visit Count(関心領域に視線を移した回数)を比較した.
分析:全ての比較にMann-WhitneyのU検定を用いた.統計処理はSPSS(IBM SPSS Statistics23.0)を用い,危険率5%未満をもって有意とした.なお,本研究は共同研究者所属の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号14-Ifh-08).
【結果】TP-KYTの総得点については,医療従事者242.1±20.2点,4年生102.1±37.7点であり,医療従事者のほうが高い結果を示した(p=0.001).場面4(浴室場面)の得点においても医療従事者50.0±16.6点,4年生15.7±12.1点であり,場面毎にみても医療従事者が高い結果を示した(p=0.002).眼球運動では,人物におけるTotal Visit Durationは医療従事者1.36±1.53秒,4年生 2.48±1.50秒であり,大きな時間差は見られなかった(p=0.073).人物におけるVisit Countは医療従事者1.67±0.82回,4年生2.71±0.76回であり,学生のほうが有意に人物を何度も見ていた(p=0.026).採点シートの下位因子においては,セラピストの位置が遠いと記載(医療従事者4/7名,学生0/7名),同じ人物を見ていても靴下を履いたままを記載(医療従事者7/7名,4年生4/7名)に気づきの偏りがみられた.
【考察】TP-KYTにおける危険予知能力は医療従事者が高値を示す一方,アイトラッカーによる固視時間については大きな違いは見られなかった.しかし,人物に対する視線移動回数については学生の方が明らかに視線を移していることが分かった.また,同じ人物を見ていても医療従事者の方が靴下を履いている,セラピストの位置が遠いという環境因子にも着目していたことが分かった.このことより,リスクに対する気づきの特徴として学生の方が人物に視線をとられやすく,環境因子に着目出来ていないことが明らかになった.また,TP-KYT下位因子の特徴として学生はセラピストがいることで安全と感じ,起こるかもしれないリスクを排除する可能性が示唆された.今後の学生指導において,リスクコミュニケーションの手法を用い,疾患・障害像の基礎知識を踏まえ,起こり得るリスクを推論しあうことで学生のリスク認知を知り,教育を行うことが重要である.今後は対象者や疾患特性場面を増やすことで卒前教育,卒後教育にも応用できるような危険発見の特徴をさらに検証したい.