第56回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-1] ポスター:脳血管疾患等 1

Fri. Sep 16, 2022 12:00 PM - 1:00 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PA-1-2] ポスター:脳血管疾患等 1右側頭頭頂皮質下出血により重度の半側無視と感覚性失語症を呈した症例に対する体性感覚を利用した介入の一例

荘司 さやか1山本 実緒1大西 正二2,3熊谷 恵子4 (1社会医療法人社団 森山医会 森山脳神経センター病院,2横浜市北部地域療育センター,3筑波大学人間総合科学研究科障害科学専攻博士後期課程,4筑波大学人間系)

【はじめに】左半側空間無視(以下,USN)は,右頭頂葉,右前頭葉,視床などの損傷で起こり,障害の程度は様々である.また,右頭頂葉後下部の病巣では,自発的に患側の上肢を用いようとしない,半側身体失認が起こることがある.USNの治療法には,セラピストの指示により,左へ視線を向けるというトップダウンアプローチや,プリズム眼鏡を使用したボトムアップアプローチなど,視空間知覚に対して言語指示を伴う介入が検討されている.一方で,体性感覚を使用したアプローチがUSNを改善させたという報告もあるが,これらの報告は,認知機能面が中等度から軽度の患者を対象としており,重度の患者を対象とした報告は少ない.
【目的】今回,右側頭頭頂葉皮質下出血により,重度のUSNと半側身体失認に加え,中等度の感覚性失語症を呈した患者対し,USNと半側身体失認の改善と目的に,体性感覚を使用したアプローチを行った.その結果,FIMが向上したので,その経過を報告する.なお,報告に関しては院内の倫理規定に則り,ご本人ご家族に説明のうえ書面にて同意を得た.
【症例紹介】80歳代の女性.利き手:右.病前は独居での自立した生活を送っており,趣味は,買い物や,友人と食事をすることだった.右側頭頭頂葉皮質下出血を発症して,約1ヶ月後に回復期リハビリテーション病院へ転院となった.コミュニケーションは,簡単な日常のやり取りは可能だったが,喚語困難,語性錯誤,音韻性錯誤を認めた.名前の書字は可能だったが,模写課題・線分抹消課題・線の二等分課題,TMTは,実施困難だった.左BRS:4-4-6,左上下肢の表在・深部感覚:軽度鈍麻.Functional Balance Scale(以下,FBS):29点.FIM:26点.食事動作は,右側にお膳を配置するも,茶碗や皿を探せないため介助を要した.トイレ動作では,左側にある便座を探せず,何もない空間に座ろうとしてしまい介助を要した.フリーハンド歩行が可能だったが,前方や左側の障害物に気付かないため手引き歩行の介助が必要だった.
【方法】重度のUSNと失語症のため,視覚刺激と言語指示を利用した介入は困難だった.そこで,体性感覚を利用した介入を3か月半実施した.作業療法では,「両上肢でチェーンを外す」課題を使用し,抵抗覚へのフィードバックを行った.さらに,余暇活動として実施した「ちぎり絵」等では,紙の触覚や紙を破る際の抵抗覚のフィードバックが得られやすいように,素材と作業環境を調整した.また,理学療法では,自発的な体幹の回旋運動を中心としたアプローチを実施し,2週間ごとのFIMの得点を記録した.
【結果】作業療法開始時は,正中より右側の空間にある物品への注視も困難だったため,両上肢を誘導しながら右側の空間で課題を実施した.徐々に右側から正中,左側の空間で課題を実施できるようになった.最終評価では,模写課題・線分抹消課題・線の二等分課題が実施できるようになり,BIT(通常検査):84点となる.TMTA:11分39秒,TMTB:不可,FBS:49点 FIM:88/126点.食事動作は,正中位に配膳することで自立となる.トイレまでの移動は見守りを要すが,トイレ動作は自力で可能となる.歩行は,障害物に気付くようになるも,左から来る人は避けられないため,介助は必要であった.ちぎり絵は,道具のセッティング後自力で行えるようになった.
【考察】視覚や言語でのフィードバックは困難だったが,体性感覚を優位に利用することで,自己身体空間が処理できるようになり,USNと身体失認の改善に繋がったと考える.また,作業空間などを変化させて活動を行ったことで,近位・遠位空間のUSNも改善した.身体空間と近位空間は,生活行為を行う上で重要であるといわれており,これらの空間のUSN改善が,FIMの向上に繋がったと考える.