第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-10] ポスター:脳血管疾患等 10

2022年9月17日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-10-12] ポスター:脳血管疾患等 10片麻痺・高次脳機能障害を呈した若年脳卒中患者の復学へ向けた支援~上肢機能に着目した介入~

赤木 詩野1狩屋 俊彦1吉村 学2 (1川崎医科大学附属病院リハビリテ―ションセンター,2川崎医療福祉大学作業療法学科)

【はじめに】
  若年脳卒中患者では,発症時期が低年齢であるほど脳の可塑性は高く,早期から復学を見据えた関わりが重要であると報告している.今回,10代で脳室内出血となり,復学を見据えて介入した症例を経験したため報告する.
【事例紹介】
 症例は,脳室内出血により左片麻痺と高次脳機能障害を呈した10代の女性である.利き手は右手で,介護士を目指して短大に在学していた.頭痛と意識レベルの低下を認め,救急搬送となった.脳室内出血と診断され,脳室ドレナージ術が施行された.第3病日より作業療法を開始した.意識レベルはGCS1/1/6,BRSはallⅡであった.基本動作とADLは全介助であった.なお,本発表に際し,本人より口頭で了承を得た.
【経過】
 機能的な上肢機能訓練を実施した時期(第3病日~第33病日)
 開始時は,意識レベル改善を目的とした座位・立位訓練や,廃用症候群予防を実施した.第12病日より,意識レベルはGCS4/5/6となり,BRSは上肢Ⅲ,手指Ⅳ,下肢Ⅳまで改善を認めた.症例は,初期の上肢機能の予後良好因子が認められたため,復学と介護職への就職も見据え,上肢機能の向上を目的に介入を開始した.介護職では,シーツ交換や患者介助など仕事内容は多岐にわたり,上肢の粗大筋力や巧緻動作,両手動作が求められる.そのため,促通反復療法,課題指向型訓練を段階的に実施し,麻痺の改善に合わせた応用動作訓練に移行した.結果,BRSは上肢Ⅳ,手指Ⅴ,下肢Ⅳ,上肢FMAは47/66点,ARATは37/57点まで向上した.
 上肢機能訓練を生活に汎化した時期(第34病日~第81病日)
 上肢機能は向上したものの,注意障害,左半側空間無視などの高次脳機能障害の影響から左上肢の不使用を多く認めた.そのため,生活場面での左上肢の使用頻度の向上を目的に,MALとTransfer packageを用いて生活場面への汎化を促した.結果,生活場面での左上肢の不使用に対する気付きと使用頻度の向上を認めた.第81病日には,ADLはFIM運動項目48/91点となった.
 復学に向けた直接的な訓練を実施した時期(第82病日~第147病日)
 左上肢の使用頻度向上に伴い,BRSはallⅤと上肢機能改善を認めたため,復学へ向けたタイピングやシーツ交換などの直接的な訓練を開始した.シーツ交換では,看護師や介護士とともに病棟での訓練の機会を設けることで,完成度や作業速度の改善がみられた.ADLはFIM運動項目90/91点となった.
【結果】
 最終評価時,BRSはallⅥ,FMAとARATは満点となった.注意障害,左半側空間無視は軽度残存していた.第148病日に自宅退院となり,新学期より復学の方針となった.
【考察】
 本症例の上肢機能向上ならびに復学に繋がった要因として,上肢機能の予後予測を行い,将来を見据えた身体機能の獲得に働きかけたこと,MALやTransfer packageを用いて左上肢の不使用への気付きを促せたことが挙げられる.本症例は「介護士になる」という目標があり,本人のニーズと相違がないような作業の提供を心がけた.病棟と連携したシーツ交換などの介護職に必要なスキルの練習が行えたことも,モチベーション維持に良い影響をもたらしたと考える.