第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-10] ポスター:脳血管疾患等 10

2022年9月17日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-10-7] ポスター:脳血管疾患等 10回復期リハビリテーション病棟の脳卒中患者における入院中の脳卒中後不安の経過と増悪に関連する要因の検討

鈴木 章仁1務台 均2 (1安曇野赤十字病院,2信州大学医学部保健学科作業療法学専攻)

[はじめに]脳卒中患者のうつ症状(Post Stroke Depression: PSD)は日常生活動作(Activitiesof daily living:ADL)との関連性の報告はみられている.しかし,臨床では脳卒中後にうつ症状の有無に関わらず,不安(Post Stroke Anxiety: PSA)を呈する患者がみられるが,PSAについての報告は少ない.PSAについて身体機能やADLのみではなく,心理機能に関与していく作業療法士としては見過ごすことができない症状である.そこで今回,回復期病棟入院脳卒中患者の入院中のPSAの経過を調査し,入院中のPSAの増悪の関連性について検討を行ったので報告する.
[対象と方法]対象者は2016年4月から2020年3月までに当院回復期病棟に入退院した脳卒中患者で同意を得られた180名のうち,意識障害やせん妄,運動失調,失語症,認知機能障害,既往に精神疾患が認められなかった91名(男性52%,中央値75歳)とした.
PSAの評価にはHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)を用いた.HADSは「不安」(HADS-A)と「うつ」(HADS-D)の各7項目の計14項目からなる質問票であり,各項目0-3点の尺度で合計が0-7点で「なし」,8-10で「疑診」,11-21で「確診」とされている.今回はHADS-Aの合計が入院時から退院時に変化した有症率をそれぞれ算出した.また,入院時から退院時にHADSAの合計が「疑診」から「なし」,「確診」から「疑診」または「なし」に変化した者をPSA「改善」とし,「なし」から「疑診」または「確診」,「疑診」から「確診」に変化した者をPSA「増悪」として算出した.
ADLの評価はFunctional Independence Measure (FIM)を用いた.患者基本属性として,年齢,性別,家族構成(独居または独居以外),回復期病棟入院期間,入院時Burunnstrome stage(BRS)(上肢と下肢)を診療記録から入手した.入院中のPSAの増悪に関連する因子を検討するために,PSAの増悪の有無を目的変数として,先行研究からPSAに関連が高いと考えられる上記の患者基本属性と入院時のFIM運動項目と入院時のHADS-AおよびHADS-Dを説明変数として,二項ロジスティック回帰分析を行った.本研究は当院倫理審査委員会の承認を得ている.
[結果]入院時のPSAの有症率は「なし」56.0%,「疑診」26.4%,「確診」17.6%であり,退院時のPSAの有症率は「なし」58.2%,「疑診」27.5%,「確診」14.3%であった.入院時から退院時にPSAが変化した割合は,入院時「なし」から退院時「疑診」に17.6%,「確診」に5.9%が変化し,入院時「疑診」から退院時「なし」に37.5%,「確診」に4.2%が変化し,入院時「確診」から退院時「なし」に31.3%,「疑診」に12.5%が変化した.全体としてのPSAが改善した割合は17.6%,増悪の割合は14.2%であった.PSAの増悪に関連する因子としては,入院時FIM運動項目[オッズ比0.945,95%CI(0.898-0.995)]が抽出された.
[考察]入院時のPSAの有症率は約17%であり,有症率が約30%と報告されているPSDよりは割合は低かった.入院中にPSAが増悪する割合は全体で14%であり,入院時にPSAがみられない患者の約23%は疑診または確診に増悪していた.PSAが増悪する要因として,入院時のADL能力が低いことが分かった.これは入院時のADL能力が低い患者は退院時のADL能力も低いことが多い.そのため,入院時にはPSAがみられないもしくは軽度の患者が入院生活の中で今後の生活に対する不安が強くなることで症状の出現や悪化していくことが考えられる.以上より,入院時点から上記の当てはまる患者には,PSAの増悪にも考慮し,自宅退院向けて可能な限り不安を取り除けるような作業療法を行っていく必要があると考えられる.