第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-4] ポスター:脳血管疾患等 4

2022年9月16日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-4-11] ポスター:脳血管疾患等 4家事に困難さを感じている脳卒中後遺症者の作業選択に関する研究~家事の遂行に焦点を当てた分析~

石代 敏拓1小林 法一2 (1群馬パース大学リハビリテーション学部,2東京都立大学大学院人間健康科学研究科)

序論
家事の再開を望む脳卒中後遺症者の声は多く,医療機関においては家事動作や心身機能の改善を目的としたリハビリテーションが行なわれる.しかしながら,家事の動作ができたとしても自宅では家事が行なわれない事例も散見される.このように家事に取り組む者とそうではない者にはどのような差異があるのか.これまでに心身機能や環境的要因等と家事の自立度の関連が量的に検討されているが,我々はこのような疑問を作業選択の観点から質的に検討した.
目的
脳卒中後遺症者が家事を行なうかどうかの選択,つまり家事における作業選択に関わる要因を明らかにすることを目的とする.本研究の結果は,脳卒中後遺症者が生活環境において家事に参加することを念頭においた評価・プログラムの開発に資するものである.
方法
合目的的サンプリングにより選定され,かつ口頭と文書による研究の説明・依頼に同意の得られた脳卒中後遺症者を研究参加者とした.個別インタビューによってデータが収集された.インタビューガイドでは,まず研究参加者が日々行なっている家事と今後行ないたいと思っている家事を聴取した.次に,それぞれの家事についてどのような困難を経験しているか,困難の有無に関わらず家事を行なう理由等について聴取した.収集されたデータは質的記述的分析により分析した.インタビューの逐語録を作成した後,家事における作業選択に関連する語りを抜き出しコード化した.さらに内容の類似したコードを統合し,最終的にテーマを生成した.なお,本研究は所属機関の研究倫理委員会の承認を得て実施した.
結果
7名[女性5名,年齢57.0(IQR50.0-65.5)歳,発症からの日数1263.0(IQR735.5-1632.5)日]の研究参加者の語りを分析した結果,家事における作業選択に関連する要因が4テーマ(以下,【 】に表記する)生成された.本研究参加者の家事における作業選択には,一日のスケジュールに家事をどのように組み込むか,そして家事が自分の生活においてどのような位置付けでありどのように家事に向き合っているかの【日常生活の文脈】が影響していた.また,家庭内において自身が家事の担い手であるという感覚を持ち,家事の支援を受けていたとしても自分でできる部分を行なえる【家庭維持者としての主体感】があるかどうかも家事の実施に影響していた.【家事の許容範囲】は,完璧にできなくても受け入れて家事を行なったり,家族や訪問介護員の家事のやり方に納得できないために自分で家事をするようになるという選択に影響していた.【家庭内や地域の物理的環境】には居住環境や交通機関,目的地へのアクセシビリティ等が含まれ,家事における作業選択に影響していた.
考察
研究参加者はいずれも日常的に家事を行ないながらも脳卒中後特有の家事の困難さを感じており,実施する家事の内容や取り組み方,頻度等は個人の動機や文脈的要因等の影響を受けていた.このような作業への従事の仕方は,Parnellらによって検討されている作業選択の概念とも一部合致している(Parnell et al., 2019).よって本研究参加者は脳卒中後遺症者の作業選択を検討する対象として妥当であったと考える.脳卒中後遺症者の家事支援においては,クライエントが家事を行なう文脈や家庭内・地域の物理的環境,どのような家事のやり方を許容できるかを評価し,自分自身が主体として家事に関わっている感覚を得られる支援が有用であることが示唆された.