第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-4] ポスター:脳血管疾患等 4

2022年9月16日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-4-9] ポスター:脳血管疾患等 4自転車交通事故後における自転車使用再開~自転車に対する交通事故後の不安軽減を含めて~

山田 隆貴1村上 友通2 (1医療法人 橋本病院リハビリテーション部,2専門学校 健祥会学園作業療法学科)

【はじめに】自動車運転の文献数に対し,自転車運転に関する研究・報告は非常に少ない.今回,学生で交通事故後の自転車利用再開と復学支援を目標とした症例を経験した.結果,自宅-学校間の距離(約2km)を自転車にて走行可能となり,退院後の,外来リハビリテーションフォローにて,学校区内であれば自由に自転車運転が可能となった.先行研究より,事前評価や介入方法の一部を参考に介入し,退院後の外来フォローまでを以下に報告する.
【症例紹介】女性.自転車で通学中,乗用車に左方より跳ねられ受傷し,右外傷性クモ膜下出血を認めた.約2ヵ月で意識レベル改善し,当院転院となった. 病前情報としては,友人と自転車にて遠方構わず出かけていた.転院当初も「早く友達と遊びたい」と聞かれていたが,「自転車に乗るのは怖い」との訴えもあった.今後の生活を考慮して両親とも相談し,自転車への不安軽減と自転車利用の再開が必要となった.尚,本報告にあたり,個人情報とプライバシーの保護に配慮し,本人と両親には書面にて,同意・署名を得た.
【評価】心身機能はBrunnstrom Recovery Stage(BRs), Stroke Impairment Assessment Set(SIAS), Berg Balance Scale(BBS), Trail Making Test(TMT),筋力,関節可動域を確認.自転車評価は恐怖心昇華のためSelf Monitoring(SM)を実施.「不安/恐怖心/自信」の3項目を10段階で設定.次いで片脚立位時間,振り返り動作,ペダリング,足蹴り駆動・ハンドリング,乗降動作,ブレーキ操作を確認.
【作業療法介入】運転練習は2-3回/週.週1回SMにて心境を確認.院内練習としては注意機能,前庭機能,協調性,ボディーイメージ,筋力に焦点を当て介入.自転車練習では,第1段階として足蹴り駆動・ハンドリング,乗降動作練習,ブレーキを行い,第2段階として病院敷地内運転練習,実道路で練習を行い,退院前は学校の先生に確認し通学路・危険場所の確認・指導を実施.退院後には注意機能・協調性課題を中心に行い,自転車使用状況・SMの確認を行った.
【経過】(自転車介入当初)BRs:All6. SIAS:73/76点. BBS:51/56点.移動は独歩可能だが歩隔は広い.TMTはA:1’42秒,B:1’44秒.SM:「8/5/0」.片脚立位時間は右:15秒,左:3秒,足蹴り駆動は可能でハンドリングは拙劣さあり. 左側からの乗降動作に難渋.(退院時)SIAS:75/76点, BBS:53/56点.TMTはA:1’12秒,B:1’20秒.SM「2/2/2」で不安・恐怖心は減少.乗降動作が安全に可能となり,駆動開始時の踏み込みが安定.走行中の後方確認も可能となった.実道路走行では注意点や走行指導を両親・本人に実施.自宅-学校間の自転車走行が可能となり運転技能の再獲得に至った.(退院後6ヶ月)SIAS:76/76点.BBS:55/56点.TMTはA:40秒,B:54秒.SMは「1/0/5」と自信の上昇が確認できた.聴取より学校区内で友人と自転車を使用して遊びに行っているとのこと.退院後に危険な状況や転倒もなく安全に自転車運転ができている様子.
【結果】自転車に対する不安・恐怖心が昇華され,自信に結びついている.加えて,走行中にすれ違う際は速度を落とす・一時停止を常に配慮ができるようになり,安全に自宅-学校間の自転車走行が可能となった.また学校区内であれば自転車にて友人と自由に遊びに行けるようになった.
【考察】事故後の心的外傷は,介入にあたり障壁となる可能性があり,中井は「心的外傷は,伝達性に乏しく.言語化しにくいだけではない.」と述べている.心境の程度を具体的に認識して数字として表し,昇華することが必要と考えた.また運転再開には四肢・体幹協調性,ボディーイメージの強化に焦点を当て改善に努めた所,実用的な自転車走行が可能となったため,上述した機能が運転技能の向上に関わることが示唆された.