[PA-6-4] ポスター:脳血管疾患等 6失行症を中心とした高次脳機能障害により行為の障害を呈した症例に対する誤反応の軽減に向けた介入:シングルケースデザイン
【はじめに】今回,運動麻痺に加え,失行を中心とした高次脳機能障害を認めた症例を経験した.症例は,食事と歯磨きで特徴的な誤反応を認め,介助を要していた.そのため,失行症を補う戦略の獲得によりADL向上を図ることをコンセプトとした介入であるStrategy Training (ST) (Donkervoort ,2001)を基盤とした介入を行い,シングルケースデザインで介入の有用性を検討した.
【対象】70歳代男性.左頭頂葉,側頭葉の脳出血を認め,11病日目に当院へ入院.右片麻痺,感覚障害,運動性失語に加え,観念性失行,肢節運動失行,構成障害,視覚性注意障害が疑われた.評価結果を次に示す.FMA:9/66点,SLTA:単語の理解90%,単語の復唱50%,漢字・単語の音読40%,短文の理解40%.SPTA:上肢(片手)習慣的動作,上肢(片手)連続動作,上肢・物品を使う動作(物品なし),上肢・描画(模倣),積木テストで誤反応を認めた.右上肢は運動麻痺を考慮し非実施.線分抹消試験:20/36点(左右いずれも見落とす).CBS:1/30点.視野障害,半側空間無視,視覚性運動失調を示唆する所見は認めなかった.食事ではスプーンの見落とし,左上肢の非効率的な関節運動を認め,歯磨きでは重要でない工程を繰り返していた.緩徐にADLの向上を認めるも行為の遂行状況に変化はなかった.そこで,症状が残存しながらも誤反応の軽減を図るべくSTを基盤とした介入を行うこととした.本報告に際し,症例は十分な意思疎通能力を有していないため,同居家族に実施内容を説明し,書面にて同意を得た.
【方法】シングルケースデザイン(ABAB法)を用いた.A期はSTなし(徒手介助,口頭教示,ジェスチャー)を5日間,B期はSTあり(次に行う行為の動画や画像を提示)を7日間行った.同一時間帯の各行為を映像に記録し,観察した誤反応を困惑・拙劣・省略・位置の誤り・誤用・系列的エラー(De Renzi ,1988)に分類した.その他SPTA,AMPS,左上肢のSTEF,BBTを用いた.分析は中央分割法を用い,celeration line(CL)を描写の上,傾きで変化を捉えた.また,Tau-U検定を用い,各操作期間の有意差を検定した.結果はTau値<0.20「小さな変化」,0.20≦Tau値<0.60「中等度の変化」,0.60≦Tau値<0.80「大きな変化」,0.80≦Tau値「きわめて大きな変化」とした(Vannest et al, 2015).分析はウェブアプリ(Vannest, 2016)を用い,有意水準は5%未満とした.
【結果】途中で消化器系症状を認めたため,B’期は実施せずABA法へ変更した.視覚的分析(傾き):食事がA期(-0.18),B期(-0.64),A’期(-1.43).歯磨きがA期(-1.15),B期(-0.50),A’期(-0.21).統計学的分析:食事がA期(Tau=0,p=1.0).A期-B期(Tau=-0.36,p=0.31).B期(Tau=-0.6,p=0.09).B期-A’期(Tau=-0.33,p=0.36).歯磨きがA期(Tau=-0.7,p=0.08).A期-B期(Tau=-0.6,p=0.10).B期(Tau=-0.2,p=0.57).B期-A’期(Tau=-0.7,p=0.05)であった.その他の結果を次に示す(pre/A期/B期/A’期の順に記載).STEF(74/83/80/80),BBT(25/27/29/29),AMPS(運動技能-0.1/-0.4/-0.1/-0.3,プロセス技能-0.9/-1.0/-0.4/-0.7).
【考察】片手で歯磨き粉の蓋を開ける,歯磨きを終えた後にうがいを行うなど,道具の操作性,行為の手順の改善を認めた.一方,BBTやSTEFで示される運動機能に大きな変化は認めなかった.この変化は,代償的な方略を認識し易いよう,症例特異的な高次脳機能障害を考慮した教示を行ったこと,つまりSTを基盤とした介入が,失行や他の高次脳機能障害を補う代償方略の獲得の一助となった可能性があると考える.
【対象】70歳代男性.左頭頂葉,側頭葉の脳出血を認め,11病日目に当院へ入院.右片麻痺,感覚障害,運動性失語に加え,観念性失行,肢節運動失行,構成障害,視覚性注意障害が疑われた.評価結果を次に示す.FMA:9/66点,SLTA:単語の理解90%,単語の復唱50%,漢字・単語の音読40%,短文の理解40%.SPTA:上肢(片手)習慣的動作,上肢(片手)連続動作,上肢・物品を使う動作(物品なし),上肢・描画(模倣),積木テストで誤反応を認めた.右上肢は運動麻痺を考慮し非実施.線分抹消試験:20/36点(左右いずれも見落とす).CBS:1/30点.視野障害,半側空間無視,視覚性運動失調を示唆する所見は認めなかった.食事ではスプーンの見落とし,左上肢の非効率的な関節運動を認め,歯磨きでは重要でない工程を繰り返していた.緩徐にADLの向上を認めるも行為の遂行状況に変化はなかった.そこで,症状が残存しながらも誤反応の軽減を図るべくSTを基盤とした介入を行うこととした.本報告に際し,症例は十分な意思疎通能力を有していないため,同居家族に実施内容を説明し,書面にて同意を得た.
【方法】シングルケースデザイン(ABAB法)を用いた.A期はSTなし(徒手介助,口頭教示,ジェスチャー)を5日間,B期はSTあり(次に行う行為の動画や画像を提示)を7日間行った.同一時間帯の各行為を映像に記録し,観察した誤反応を困惑・拙劣・省略・位置の誤り・誤用・系列的エラー(De Renzi ,1988)に分類した.その他SPTA,AMPS,左上肢のSTEF,BBTを用いた.分析は中央分割法を用い,celeration line(CL)を描写の上,傾きで変化を捉えた.また,Tau-U検定を用い,各操作期間の有意差を検定した.結果はTau値<0.20「小さな変化」,0.20≦Tau値<0.60「中等度の変化」,0.60≦Tau値<0.80「大きな変化」,0.80≦Tau値「きわめて大きな変化」とした(Vannest et al, 2015).分析はウェブアプリ(Vannest, 2016)を用い,有意水準は5%未満とした.
【結果】途中で消化器系症状を認めたため,B’期は実施せずABA法へ変更した.視覚的分析(傾き):食事がA期(-0.18),B期(-0.64),A’期(-1.43).歯磨きがA期(-1.15),B期(-0.50),A’期(-0.21).統計学的分析:食事がA期(Tau=0,p=1.0).A期-B期(Tau=-0.36,p=0.31).B期(Tau=-0.6,p=0.09).B期-A’期(Tau=-0.33,p=0.36).歯磨きがA期(Tau=-0.7,p=0.08).A期-B期(Tau=-0.6,p=0.10).B期(Tau=-0.2,p=0.57).B期-A’期(Tau=-0.7,p=0.05)であった.その他の結果を次に示す(pre/A期/B期/A’期の順に記載).STEF(74/83/80/80),BBT(25/27/29/29),AMPS(運動技能-0.1/-0.4/-0.1/-0.3,プロセス技能-0.9/-1.0/-0.4/-0.7).
【考察】片手で歯磨き粉の蓋を開ける,歯磨きを終えた後にうがいを行うなど,道具の操作性,行為の手順の改善を認めた.一方,BBTやSTEFで示される運動機能に大きな変化は認めなかった.この変化は,代償的な方略を認識し易いよう,症例特異的な高次脳機能障害を考慮した教示を行ったこと,つまりSTを基盤とした介入が,失行や他の高次脳機能障害を補う代償方略の獲得の一助となった可能性があると考える.