第56回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

脳血管疾患等

[PA-6] ポスター:脳血管疾患等 6

Sat. Sep 17, 2022 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (イベントホール)

[PA-6-7] ポスター:脳血管疾患等 6制作活動により精神的ストレスが軽減した乳がんを併発した脳梗塞患者の報告

町田 知駿1近藤 健2藤井 洋有1小田 俊一1関根 圭介1 (1公立藤岡総合病院リハビリテーション室,2群馬パース大学)

【はじめに】脳血管障害及びがんは精神的ストレスがかかりやすい疾患であることが知られている.しかしながら,医療機関でのリハビリテーション(リハ)においては,機能回復,ADLの改善に比べて,精神的ストレス軽減への介入は難しいことが多い.今回乳がんを併発した脳梗塞症例に対して制作を伴う作業活動を実施し,精神的ストレスが軽減した一例を報告する.発表に際して口頭と書面にて本人の同意を得た.
【症例紹介】80代女性,診断名はアテローム血栓性脳梗塞,症状として小脳失調,Wallenberg症候群があった.現病歴は左小脳梗塞により右片麻痺,呂律障害により救急搬送され,13病日に回復期病棟に転棟した.47病日に右乳がんが診断された.既往歴はⅡ型糖尿病,洞房性心房細動があった.生活歴は認知症の夫と二人暮らしで夫の介助をしていた.家庭内役割は家事であり,飼い猫の世話が楽
しみの一つであった.
【作業療法評価】乳がん手術前の評価を以下に示す(60病日).Brunnstrom Recovery stage(Br.stage)はⅥ-Ⅵ-Ⅵであり麻痺はごく軽度であったが,体幹失調が見られ,バランス機能が低下していた(Scale for the assessment and rating of ataxia ; SARA 12点,Berg BalanceScale ;BBS 28点).上肢機能はSTEF左81点,右88点であり,実用手レベルであった.つらさと支障の寒暖計(DIT)はつらさ10点,支障10点であり,精神的ストレスが強い状態であった.「頭が重く,めまいが常にする」との発言が頻回にあった.長谷川式簡易知能評価スケールは25点であり,検査場面での認知機能は概ね良好であったが,せん妄症状がみられ,転倒予防のために離床センサーが使用されていた.嚥下機能が低下し,胃婁にて管理されており,ほとんどのADLに介助を要していた.FIMは38点(運動20点,認知18点)であった.【介入の基本方針】症例は脳梗塞発症に伴う身体症状,活動制限があり精神的ストレスが強い状態であった.さらに,がんの診断,治療によりさらに精神的ストレスが増大することが危惧された.そのため,精神的ストレスを軽減することを目標に,制作を伴う作業活動を計画した.
【介入経過】61病日から症例の関心のあった猫をモチーフにした張り子を開始した.制作中に「こういうものをリハビリでやるとは思わなくて楽しい」との発言あった.73病日には,アンデルセン細工を実施し「作業をやっている時は集中しているので,つらさは気にならない」と話すようになった.乳がんの手術のため他病棟に転棟する際(78病日)には「また(回復期病棟に)帰ってきたら続きをしたい」という希望も聞けるようになった.80病日に右腫瘍摘出術を実施し,86病日に回復期病棟に再転棟した.
【結果】DITはつらさ5点,支障5点であり,作業活動を導入する前に比べて精神的ストレスが軽減した.「制作したものをお世話になった人に渡したい」といった前向きな発言も聞かれた.体幹失調,バランスは改善し(SARA 10点,BBS 44点),FIMは71点(運動53点,認知18点)に改善した.せん妄症状は消失し,バランス能力も改善したことから日中の歩行車歩行は自立となった.家族の介護力が乏しいため,156病日にリハ継続を目的に転院となった.
【考察】症例は張り子やアンデルセン細工といった制作に前向きに取り組むことができ,乳がん術後も精神的ストレスは増大を防ぐことができた.制作の過程や成果が肯定的な感情を引き起こし,症例の精神的ストレスを軽減したと考える.本報告は一例ではあるが,制作を伴う作業活動は入院患者の精神ストレスを軽減する治療手段の一つとして有用であることが示唆された.