[PA-7-12] ポスター:脳血管疾患等 7急性散在性脳脊髄炎を呈した症例が自身の在り方を模索し退院するまでの過程~複線径路等至性アプローチの分析~
【はじめに】急性散在性脳脊髄炎(Acute Disseminated Encephalomyelitis: 以下,ADEM)は感染や予防接種後に生じる脳脊髄炎であり,中枢神経系の白質を主な病変とする脱髄性疾患である(厚労省,2011).成人ADEMの罹患率は不明だが,小児の罹患率である0.40人/小児10万人年より低いとされる.先行研究では,ADEMの発症に伴う身体機能・高次脳機能への低下に対する介入経過について数件の報告が見られるが,回復期リハビリテーション(以下,回復期リハ)病棟において復職を目指した症例の経過を質的に調査した報告はない.
【目的】ADEMの発症に伴い四肢麻痺,複視を呈した症例が,回復期リハ病棟の経過において,身体機能の回復に伴い復職を志す中で,自己と向き合い復職とは異なる自身の在り方を検討し退院に至った過程を示すことを目的とした.なお,本報告に関して症例に趣旨を説明し,書面にて同意を得ている.
【症例】A氏,30代男性.ADEMによる四肢麻痺,複視を呈し,急性期病院にてステロイドパルス療法を反復し症状の改善を認めたため,第32病日に回復期リハ病棟転院となった.第60病日までリハ継続し,複視は残存したがADL自立に至り自宅退院された.病前は歯科医として勤務され,転院当初は復職を強く希望されていた.奥様も同業種であった.
【方法】本研究の分析には,複線径路等至性アプローチ(Trajectory Equifinality Approach: TEA)を用いた.1回30~60分の半構造化インタビューを入院中に3回実施し,聴取した内容から逐語録を作成した.本症例が経験した出来事や思いなど,意味のまとまり毎に区切って切片化し,ADEM発症から回復期リハ病棟退院に至る経過の中で,復職に関連する項目に焦点を当て時間の流れに沿って並び替え,モデル図化した.
【結果】本症例はCOVID-19が国内で流行し始めた時期にADEMを発症し,熱発のため入院に難渋し早期治療を受けることができず,四肢麻痺が進行していくことで"最悪の状況を想定"していた.急性期病院にて治療が進み,《引きずりながらも歩くことが出来た経験》を分岐点に身体機能の改善を実感し,"自身の生活を取り戻し復職に至ることへの希望"を抱き始めた.回復期リハ病棟に転院後も希望を抱きリハを継続していたが,《身辺処理が自立に向かう一方で,復職に至ることへの困難さに直面》した."復職に求められるスキルの高さ"は制約として,"奥様が同業種として生活を維持されている"ことは促進的に働き,"退院後の自身の生活の維持","家族の一員として優先すべきこと"を再考し,〖復職とは異なる自身の在り方を模索する〗等至点に至った.
【考察】ADEMは比較的予後が良好とされる一方,特発性ADEMは死亡や後遺症といった重大な転機に繋がることも少なくない(Sonneville R, et al. 2009).本症例も退院時点では後遺症が残存し,退院後の自身の在り方を検討させる要因となったと考えられる.また,経過の中で,本症例における"復職"という目標から,"生活の維持","家族の一員としてできること"といった作業の優先順位に変化が生じたことは,レスポンスシフト(以下,RS)を考慮する必要がある.RSとは,何らかの発症に伴い対象者の主観的基準や優先順位が変化することであり,対象者の適応的側面として捉えることの重要性が述べられている(鈴鴨,2015).作業療法士は,対象者の病い経験とその経過を質的に解釈し関わることの重要性が示唆された.
【目的】ADEMの発症に伴い四肢麻痺,複視を呈した症例が,回復期リハ病棟の経過において,身体機能の回復に伴い復職を志す中で,自己と向き合い復職とは異なる自身の在り方を検討し退院に至った過程を示すことを目的とした.なお,本報告に関して症例に趣旨を説明し,書面にて同意を得ている.
【症例】A氏,30代男性.ADEMによる四肢麻痺,複視を呈し,急性期病院にてステロイドパルス療法を反復し症状の改善を認めたため,第32病日に回復期リハ病棟転院となった.第60病日までリハ継続し,複視は残存したがADL自立に至り自宅退院された.病前は歯科医として勤務され,転院当初は復職を強く希望されていた.奥様も同業種であった.
【方法】本研究の分析には,複線径路等至性アプローチ(Trajectory Equifinality Approach: TEA)を用いた.1回30~60分の半構造化インタビューを入院中に3回実施し,聴取した内容から逐語録を作成した.本症例が経験した出来事や思いなど,意味のまとまり毎に区切って切片化し,ADEM発症から回復期リハ病棟退院に至る経過の中で,復職に関連する項目に焦点を当て時間の流れに沿って並び替え,モデル図化した.
【結果】本症例はCOVID-19が国内で流行し始めた時期にADEMを発症し,熱発のため入院に難渋し早期治療を受けることができず,四肢麻痺が進行していくことで"最悪の状況を想定"していた.急性期病院にて治療が進み,《引きずりながらも歩くことが出来た経験》を分岐点に身体機能の改善を実感し,"自身の生活を取り戻し復職に至ることへの希望"を抱き始めた.回復期リハ病棟に転院後も希望を抱きリハを継続していたが,《身辺処理が自立に向かう一方で,復職に至ることへの困難さに直面》した."復職に求められるスキルの高さ"は制約として,"奥様が同業種として生活を維持されている"ことは促進的に働き,"退院後の自身の生活の維持","家族の一員として優先すべきこと"を再考し,〖復職とは異なる自身の在り方を模索する〗等至点に至った.
【考察】ADEMは比較的予後が良好とされる一方,特発性ADEMは死亡や後遺症といった重大な転機に繋がることも少なくない(Sonneville R, et al. 2009).本症例も退院時点では後遺症が残存し,退院後の自身の在り方を検討させる要因となったと考えられる.また,経過の中で,本症例における"復職"という目標から,"生活の維持","家族の一員としてできること"といった作業の優先順位に変化が生じたことは,レスポンスシフト(以下,RS)を考慮する必要がある.RSとは,何らかの発症に伴い対象者の主観的基準や優先順位が変化することであり,対象者の適応的側面として捉えることの重要性が述べられている(鈴鴨,2015).作業療法士は,対象者の病い経験とその経過を質的に解釈し関わることの重要性が示唆された.