第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-7] ポスター:脳血管疾患等 7

2022年9月17日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-7-4] ポスター:脳血管疾患等 7後天性脳損傷後に自動車運転を中断した当事者と家族の経験~質的研究 Meta-study を用いて~

那須 識徳12生田 純一13久野 誠1小林 隆司4 (1農協共済中伊豆リハビリテーションセンター作業療法科,2東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法科学域 博士後期課程,3筑波大学 人間総合科学研究群 リハビリテーション科学学位プログラム 博士後期課程,4東京都立大学大学院人間健康科学研究科 作業療法科学域)

背景:後天性脳損傷(以下: ABI)後の自動車運転中断は社会参加に影響を及ぼすが,ABI後の運転中断者への支援は確立されていない.Meta-studyは,質的研究の内容に関する中範囲理論をつくる手法であり,中範囲理論は実践に活用される理論である(宮前,2000).本研究は,Meta-studyにより運転中断後のABI者や家族が経験する現象を統合し,運転中断者への介入の枠組みを構築することを目的とした.
方法:論文検索はPRISMA声明を参考に,国内外合わせて9つのデータベースを使用した.検索期間は1900年4月から2020年3月とし,最終検索日は2020年10月8日であった.包含基準はABI者とその家族を対象とした運転再開状況とその後の生活について記述した質的研究及び混合研究とし,除外基準は量的研究や日本語と英語以外で書かれた論文とした.分析はPaterson(2001)らを参考にMeta-method(各研究で使用された研究デザイン,研究内および研究間の関係を分析),Metatheory(各研究で使用された概念的な枠組み,研究間での理論の使用方法を分析),Meta-dataanalysis(1次研究から,概念,メタファー,カテゴリをコード化する)を行い,Meta-synthesisにてそれらを統合した.
結果:英語論文が741件,日本語論文が34件検索された.重複を除去した後,640件の論文タイトルと要約をスクリーニングし,47件の論文を全文調査した.そのうち,運転中断後の生活の記述がない論文,日本語と英語以外の論文,質的研究や混合研究ではない論文の計40件を除いた7件および,手検索にて2件の論文を加え,最終的に9件の論文を対象とした.Meta-method: 脳卒中者のみを対象とした研究3件(50歳-94歳),家族のみを対象とした研究4件(28歳-68歳),脳外傷者と家族と医療者を対象とした研究が2件あった(脳外傷者: 35.9歳±13.4歳).研究実施国は全てオーストラリアであり,研究期間は1999年から2017年であった.Meta-theory: 1つの研究がPersonEnvironment-Occupationモデル(P-E-Oモデル)を使用し,その他の論文では理論的な背景は使用されていなかった.Meta-data analysis: 得られたコード数は631件となり,各コードはさらに帰納的に分析し38項目にサブカテゴリ化した.Meta-Synthesis: サブカテゴリ化した項目をMetamethodやMeta-theoryの結果と照らし合わせ統合した.分析はP-E-Oモデルを参考に,各サブカテゴリを,「人」「環境」「作業」の分類に手作業で分けた.「人」は,さらに「CL: Client」と「FM:Family」に分けた.最終的なテーマ数はCL: 5テーマ(①機能回復の希望に隠れている運転に関する意向,②運転再開の有無が心理・感情面に及ぼす影響,③運転中断の受け入れ状況と他者への依存度,④CLの自己能力の認識と他者の客観的な評価の相違,⑤医療的許可がない運転のリスク),FM:3テーマ(①CLへ支援することの思いと変化するFMの生活,②FMの心身の負担・ケア・生活の再建,③運転中断の有無の不確かさにより生じる不安と期待),環境: 3テーマ(①運転中断の複雑なプロセスと情報過多,②支援者の有無と協力体制,③雇用と生計の問題),作業:4テーマ(①運転中断により生じる生活の変化と中断後の生活への適応,②運転という作業の価値・意味・特性,③自己管理できない運転中断後の生活,④運転再開に必要な支援と再開後の課題)に分類された.
考察:本研究はMeta-studyの手法に沿って実施しており,研究結果は運転中断者に対して介入方針を立てるための一助になるものと考える.しかし,一次研究の全てはオーストラリアで行われており,国内で使用する場合には,異文化間妥当性の検討など調査が必要であると考える.