第56回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-7] ポスター:脳血管疾患等 7

Sat. Sep 17, 2022 11:30 AM - 12:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PA-7-5] ポスター:脳血管疾患等 7ドライビングシミュレータを用いた自動車運転評価における作業療法士の観察視点~インタビューによる探索的研究~

小笠原 未久12石川 隆志2清水 将3 (1公益財団法人 いわてリハビリテーションセンター機能回復療法部作業療法科,2秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻 リハビリテーション科学領域 作業療法学分野,3岩手大学大学院教育学研究科)

はじめに:医療機関で行われる運転再開支援の1つであるドライビングシミュレータ(以下,DS)評価は,路上運転を安全に実施できるか否かを判定する上で重要な情報を提供するとされる.一般的に運転に必要な要素は「認知・予測・判断・操作」であるとされ,作業療法士(以下,OT)はそれらの要素から患者の運転能力を判断していると思われるが,その具体的視点は明らかになっていない.DS市街地コースの走行評価においてOTはどのような観察視点から「認知・予測・判断・操作」の一連の能力を評価しているのか明らかにすることを目的に,インタビューから質的に分析し概念を抽出した.
方法:対象はDSを用いた運転再開支援を1年以上経験しているOT15名(男性9名,女性6名,平均年齢32.1±4.5歳,平均OT経験年数10.5±4.5年)とし,リモートでのインタビューを1名につき1回実施した.DSで患者の市街地コース走行を観察評価する際に重視している点を中心に聴取し,インタビュー後半で実車評価で用いられる自動車運転評価票の中からDSとも共通する項目(車線変更,交差点など)を追加質問として提示した.得られたデータからSteps for Coding and Theorizationと事例−コード・マトリックスによる質的分析を行った.本研究は所属の研究倫理審査委員会の承認を得て実施した.
結果:得られた意味コードは64で,4つのカテゴリーと21のサブカテゴリーに分類され,DS 市街地コース走行評価時の観察視点は【患者の心身機能・運転操作技能】,【交通場面毎の対応】,【運転行動全体を統括した解釈】,【評価段階に応じて推移する観察視点】の4つのカテゴリーからなることが明らかになった.【患者の心身機能・運転操作技能】と【交通場面毎の対応】は15名全員から,【運転行動全体を統括した解釈】は14名から,【評価段階に応じて推移する観察視点】は5名から表出があった.【交通場面毎の対応】は全対象者において追加質問後に多く表出されたカテゴリーとなり,OTがDS 市街地コース走行から患者の運転能力を評価する際に【交通場面毎の対応】,【患者の心身機能・運転操作技能】,【運転行動全体を統括した解釈】へと観察視点が広がっていた.
考察:今回得られた【患者の心身機能・運転操作技能】,【交通場面毎の対応】,【運転行動全体を統括した解釈】の3つのカテゴリーをMichonの運転行動モデルに当てはめると,【患者の心身機能・運転操作技能】と【交通場面毎の対応】は運転中に行う安全性に配慮する認知レベルであるTactical levelに,【運転行動全体を統括した解釈】は運転の全体を統括する認知レベルであるStrategical levelに相当すると考えられる.これまでStrategical levelは通常のDSで評価することは難しいとされていたが,今回,OTはこのレベルまで含めて患者の運転行動を評価していることが示唆された.また,DS評価は事前に十分な操作の習熟を図ることが望ましいとされ,【評価段階に応じて推移する観察視点】のカテゴリーは患者のDS 市街地コース走行をOTが可能な限り正確に解釈をしようとしていることの表れであると思われた.障害者の運転適性の問題は個別性が高く,運転環境や目的など運転という作業のあり方や支援は異なる.運転に対する適切な自己認識は安全性を向上させるとされ,OTは患者のDS 市街地コース走行を通して安全性に配慮する認知レベルであるTactical levelに留まらず,患者の個人因子や自己認識を含めた運転の全体を統括する認知レベルであるStrategical levelまで念頭に置き評価を行っていた.このことが,OTが運転再開支援に関わる役割と意義であると考える.