[PA-7-6] ポスター:脳血管疾患等 7ドライブシミュレーターにて境界域であったが運転再開となった一例
【はじめに】
脳梗塞を発症し,運転再開希望患者に運転に関する作業療法評価を行った.評価では境界域であったが,公安委員会で運転許可となった症例を報告する.症例には発表の目的を説明し同意を得た.
【症例紹介】
70歳代,男性.既往にうつ病あり.X年Y月Z日,左半身の違和感,話しにくさを自覚しA病院に救急搬送され,アテローム血栓性梗塞の診断にて入院となった.Z+2日からリハビリテーション(リハビリ)を開始し,Z+20日にリハビリ目的で当院転院となった.介入当初から著明な身体機能低下は無く,軽度の高次脳機能障害を認めたが,ADL,IADLは自立していた.Z+33日で自宅退院となった.
【評価項目】
Mini-Mental State Examination(MMSE),標準言語性対連合学習検査(S-PA),Rey複雑図形,FrontalAssessment Battery(FAB),Kohs Block Design Test(KBDT),Trail Making Test 日本版(TMTJ),Clinical Assessment for Attention(CAT),Paced Auditory Serial Addition(PASAT),Behavioural Inattention Test(BIT),Stroke Drivers Screening Assessment(SDSA),ドライブシミュレーター(DS)(Hondaセーフティナビ,本田技研工業)を用いた.
【結果】
MMSE29/30点,S-PAの3回目正答数が無関係対語3であり聴覚性記憶は保たれていた.Rey複雑図形の模写は34/36点,FAB15/18点,TMT-JはA37秒,B85秒でともに誤反応等は認めず,運転可能値を上回る結果であった.BITの通常検査は141/146点で模写試験でカットオフ値を下回り,行動検査は78/81点であった.KBDTはIQ52.1,CATは視覚性抹消課題の全項目で運転可能値を下回り,PASATの正答率が2秒条件93%,1秒条件45%で暫定基準値を下回らなかった.SDSAは運転合格予測式の結果が5.585,運転不合格予測式の結果が5.598で予測式の結果上では運転不合格であるが,0.013と僅かな差であった.DSは運転適性検査の単純反応,選択反応,ハンドル操作,注意分配/複数作業の項目を5段階評価(5優秀,4良好,3普通,2注意,1不安)した際,殆どの項目が2であった.特に反応動作はやや遅い,判断の速さは遅い,適応性はやや慣れづらい,といった結果であった.街中走行の課題では発進停止/速度は5,安全確認/位置は4,合図/全般は1であった.臨床場面では持続性注意や分配性注意の低下が見られた
【考察】
脳損傷者の運転再開群と運転非再開群の間において,麻痺の重症度以外の運動麻痺および高次脳機能障害で優位差が無かったと述べている(武原格ら,2014).また,検証群13人中7割の脳損傷者は,高次脳機能検査結果が暫定基準値内であり,無事故であった.暫定基準値を下回った脳損傷者でも無事故であったことから,机上検査が絶対的基準になるとは言えず,症例ごとに運転再開の安全性について検討すべきと述べている(武原格ら,2016).本症例は認知機能や記憶力は保持されているが,情報量の多いCATの視覚性抹消課題,複雑な課題となるKBDT やBITの模写試験で運転不可の基準であった.しかし,運転予測不可値を大きく外れることなく境界域の状態であったと考える.また,DSでは反応の遅延,判断力低下,適応力の低下が見られた.うつ病の症状として易疲労性,思考抑制や思考制止,判断力低下等が挙げられ(橋本健志,2011),評価ではこれらの症状が影響したと推測する.当院の結果としては境界域であったが,実際に公安委員会で判断を受けた時期は退院から約1ヶ月後であり,当院での評価時より安定していた可能性がある.運転再開可否の傾向として,年齢や明確な目的が挙げられ(大島健次郎ら,2016),本症例も公共交通機関による移動手段が無く,生活するうえで自動車運転が必要であった.運転再開となったが,うつ病の症状によるリスクは否定できず,今後も追跡調査を実施していく必要がある.
脳梗塞を発症し,運転再開希望患者に運転に関する作業療法評価を行った.評価では境界域であったが,公安委員会で運転許可となった症例を報告する.症例には発表の目的を説明し同意を得た.
【症例紹介】
70歳代,男性.既往にうつ病あり.X年Y月Z日,左半身の違和感,話しにくさを自覚しA病院に救急搬送され,アテローム血栓性梗塞の診断にて入院となった.Z+2日からリハビリテーション(リハビリ)を開始し,Z+20日にリハビリ目的で当院転院となった.介入当初から著明な身体機能低下は無く,軽度の高次脳機能障害を認めたが,ADL,IADLは自立していた.Z+33日で自宅退院となった.
【評価項目】
Mini-Mental State Examination(MMSE),標準言語性対連合学習検査(S-PA),Rey複雑図形,FrontalAssessment Battery(FAB),Kohs Block Design Test(KBDT),Trail Making Test 日本版(TMTJ),Clinical Assessment for Attention(CAT),Paced Auditory Serial Addition(PASAT),Behavioural Inattention Test(BIT),Stroke Drivers Screening Assessment(SDSA),ドライブシミュレーター(DS)(Hondaセーフティナビ,本田技研工業)を用いた.
【結果】
MMSE29/30点,S-PAの3回目正答数が無関係対語3であり聴覚性記憶は保たれていた.Rey複雑図形の模写は34/36点,FAB15/18点,TMT-JはA37秒,B85秒でともに誤反応等は認めず,運転可能値を上回る結果であった.BITの通常検査は141/146点で模写試験でカットオフ値を下回り,行動検査は78/81点であった.KBDTはIQ52.1,CATは視覚性抹消課題の全項目で運転可能値を下回り,PASATの正答率が2秒条件93%,1秒条件45%で暫定基準値を下回らなかった.SDSAは運転合格予測式の結果が5.585,運転不合格予測式の結果が5.598で予測式の結果上では運転不合格であるが,0.013と僅かな差であった.DSは運転適性検査の単純反応,選択反応,ハンドル操作,注意分配/複数作業の項目を5段階評価(5優秀,4良好,3普通,2注意,1不安)した際,殆どの項目が2であった.特に反応動作はやや遅い,判断の速さは遅い,適応性はやや慣れづらい,といった結果であった.街中走行の課題では発進停止/速度は5,安全確認/位置は4,合図/全般は1であった.臨床場面では持続性注意や分配性注意の低下が見られた
【考察】
脳損傷者の運転再開群と運転非再開群の間において,麻痺の重症度以外の運動麻痺および高次脳機能障害で優位差が無かったと述べている(武原格ら,2014).また,検証群13人中7割の脳損傷者は,高次脳機能検査結果が暫定基準値内であり,無事故であった.暫定基準値を下回った脳損傷者でも無事故であったことから,机上検査が絶対的基準になるとは言えず,症例ごとに運転再開の安全性について検討すべきと述べている(武原格ら,2016).本症例は認知機能や記憶力は保持されているが,情報量の多いCATの視覚性抹消課題,複雑な課題となるKBDT やBITの模写試験で運転不可の基準であった.しかし,運転予測不可値を大きく外れることなく境界域の状態であったと考える.また,DSでは反応の遅延,判断力低下,適応力の低下が見られた.うつ病の症状として易疲労性,思考抑制や思考制止,判断力低下等が挙げられ(橋本健志,2011),評価ではこれらの症状が影響したと推測する.当院の結果としては境界域であったが,実際に公安委員会で判断を受けた時期は退院から約1ヶ月後であり,当院での評価時より安定していた可能性がある.運転再開可否の傾向として,年齢や明確な目的が挙げられ(大島健次郎ら,2016),本症例も公共交通機関による移動手段が無く,生活するうえで自動車運転が必要であった.運転再開となったが,うつ病の症状によるリスクは否定できず,今後も追跡調査を実施していく必要がある.